「少年は渇望を謳う」
本が三度打ち払われる。
崩れた山の先には、怒り顔を貼り付けた木偶の坊。
「――――なんだ、その顔はよ。何なんだ、その態度はよォッ!!!!」
「おいおい。だから押さえてってばビー――――何してるの、君」
騒めきが広がる。
知ったことか。
三度屈み、本を拾い集める。
細身と大柄は立ち尽くし、俺が本を拾い集める様を眺めているようだった。
とっとと消えてくれ。邪魔だよ。
「………………」
本を抱える。
打ち払われた。
本を拾う。
打ち払われた。
本を拾う。
掴まれ、遠くに投げられた。
拾いに行き、戻り、本を拾――――――おうとした手を、本の上から踏みつけられた。
呻きが口から洩れる。
その一声だけでも、そいつらから自分の時間に、存在に干渉を受けたことが、堪らなく無駄に思えて吐き気がした。
「……お前、マジで何なんだ」
ああ、無駄だ。 ――拾う。
無駄だ。 ――本を拾う。
無駄だ。 ――打ち払われる。
無駄だ。 ――本を拾う。
無駄だ。 ――拾う。
無駄だ。 ――疲労。
無駄だ。 ――本を拾う。
無駄だ。 ――ほんの疲労。
嗚呼、気持ちが悪い。
「……何なんだって聞いてンだろッ!!! 気持ち悪りぃんだよテメェッ!!!」
頭を掴まれる。 ――力。
「何とか言えッッてンだよッ!!!!!!」
「ビージ!!」
床に投げつけられる。大柄の声が響く。
俺に力があれば。
力さえあれば、こんな局面も難なく切り抜けられた。
第一、こんなことにはならなかった。
「どういう態度なんだよそれは!! 俺達の存在を一切無視しようってのか!? いい度胸じゃねぇか、えぇ異端よぉッ!!! やっぱりお前には躾が必要だ!! 圧倒的存在による圧倒的力を以てする圧倒的誅罰がよッ!!! もう構わねぇ、俺が今ここで制裁してやるッ、この薄気味悪りぃ人外野郎がァッ!!!」
「ちょ、それはマズいよビージ! ビージ!!!」
力が欲しい。
こいつを威圧だけで捻り潰せるような力が。
一撃で魔女を屈服させられる力が。
一発でトルトを瞠目させられる力が。
一閃で学校を破壊し尽くせる力が。
一歩で世界を横断できる力が。
一目で世界を見通せる力が。
一飲みで海を枯渇させる力が。
一喝で大空を斬り裂く力が。
一踏みで大地を崩壊させる力が。
一握りで星を掴み取る力が。
一睨みで宇宙を隷属させるような力が。
力が。力が。力が――――――――――――。
「何を――――――やってんのよ、風紀委員どもッ!!!!!!!」




