「義憤――――こんなにも倒したい敵」
――喉奥に溜まる唾を飲み込めない。
その通りだろう
「私には何もない、何もだ。あるのは世界人類に対する堪えようのないこの憎しみだけ! だから壊してやる。お前も、プレジアも、この国もこの世界も!! この身この剣でこの地に下ろせる破壊と絶望の限りをたっぷりと味わわせた後になァッ!!!」
「ちょ……ちょっと、ちょっとねえ、アヤメ!!」
「!」
ようやく、奴の傍らにココウェルがいることを思い出す。
そうだ、こんなことを言い放てばもう王女の騎士などでは――
「……と、おおよそこのような所だろうな、という想像です。王女様」
「……は……はあ?」
「奴の気持ちを私なりに代弁しただけですが、驚かせてしまったようですね。すみません」
「お、驚……っていうか、え? は? だってお前今、」
「すべて貴女の勘違いです、王女様。今この場で大切なのは、彼も王女を誘拐しようと企む一味の仲間だということですよ。いえ、ともすれば首謀者であった可能性もある。貴女がここにいることを知るのは奴ともう一人だけだったのですから」
「!」
「余計な詮索・心配をせず、どうかご自分の身を案じていてください。そうすれば――近付く敵は、このアヤメ・アリスティナが残らず駆逐してご覧に入れましょう。ですから――よろしければ腕の治癒を続けていただきたい。王女様」
――成程、そうか。
王女のことなど、そうやってハナから適当にあしらうつもりだったということか。
「……。王女の騎士であることにこだわるのは、保身の為でなく……お前自身の趣味の為だということか」
「それが?」
「ココウェルが自分に翻弄される様を見てほくそ笑んでいる訳か」
「それが?」
「襲撃者共に何も伝えず切り捨てたのも、奴らが絶望する様を見たかったからか」
「!……ふふふ、」
「ココウェルが奪われるまでプレジアを逃げ回り続けたのも、苦しむココウェルとぬか喜びするマリスタ達を腹の中で笑っていたからか!」
「ふふふふふふ、ふふはははははははは!!!……やっぱりお前もはみ出し者だ!! 知ってる訳ないだろ軟禁部屋から飛んできたお前がそんなこと!!!」
「貴様ッ――「だからなんで復讐者が怒んだッて言ってんだろうがッ!!!!」
アヤメの怒号が俺の声を掻き消す。
だが、俺の腹の中で燻るものまでは消してくれない。
いつ以来だ。
俺の身体が、こんなにも純粋な怒りに支配される感覚は。
「……おいおい。お前の復讐の相手は私か? 得物がこっちを向いてるが」
「お前に返す言葉は一言だ。お前の異世界に俺を当て嵌めるな」
戦士の抜剣。




