「一人――――下策に名乗りを上げるのは」
「ちょ、ちょっと待ってくださいザードチップ先生! 万が一敵が今の想像通りの人間だったら――」
「だからって事情も知らねえアマセ一人で何とかなるってんですか。殺せないっつーハンデがあったとはいえ、俺と坊ちゃん二人がかりでほぼ互角だった相手ですよ? それを病人一人で、その上敵か味方か分からねえ王女が傍らにいる状態で……勝負以前の問題じゃないですかね。しかも……フェイリー」
「はい」
「同時に何人飛べる。この携転石のサイズだと」
「……ほぼ間違いなく、一人だと思います。だから飛ぶべきは、一人で十分な援軍になり得る誰かかと」
「……候補は絞られてくるな」
「っ……っじゃあ、伝令役の子が飛んで、すぐに戻ってくるっていうのは」
「落ち着いてください、ディノバーツ先生」
普段はトレードマークの武骨なゴーグルがあるのであろう額で指をさ迷わせながら、フェイリー・レットラッシュがシャノリアの言葉を否定する。
「携転石は『子から親へ』飛ぶことは出来ても、『親から子へ』飛ぶことは出来ない一方通行なシロモノです。所持者が親石の下へ飛んでしまうんですよ?」
「あ……」
「子石が複数の親石と同期することも実質不可能です。携転石で飛んでいけるのは一人になります」
「大勢で押し寄せれば的を増やすばかり、その上敵を刺激する可能性がある。飛んでいけるのは戦力となり得る一人のみ……そしてこうして迷っている間にもアマセは殺され、敵は治癒魔石で回復しているかもしれない……迷う暇は無いな」
「…………!!」
幾人かの目が、幾人かの間で行き来する。
状況は逼迫していた。
◆ ◆
「こ。殺すって……どういうことアヤメ。あいつを殺すってこと?」
「…………」
「…………」
――無意識に舌を、潰しそうな程圧迫してしまう。
〝貴方は黒騎士に勝てますか?〟
当初考えていた策は、これで名実ともにおじゃんになった。
いや……そも策などとはとても呼べない、神頼みのようなものだったのだ。
ココウェルをこちら側に引き込み、アヤメ及び襲撃者達を武装解除させる。
しかしアヤメは王女など歯牙にもかけぬ人間。
その上ココウェルをこちらに引き込めばアヤメは彼女を殺すという。
もはやココウェルには手の出しようがない。
真実を伝えることも、身の危険を伝えることもしてはいけない。
無知な王女を無知なまま、なんとか助け出さなければならない。
「さっきまでの威勢はどこに行った? 嘘は続かないものだなあアマセ。劇と同じく台本だったワケだ、さっきの弁舌は」
「え……嘘だったの、さっきの話……」
「もちろん。少しでも信じてしまった自分を恥じるべきです、王女様」
「う、うっせーな!」
「回復の手がいつの間にか止まっております。まだどんな襲撃があるか分かりません、早く続きを――」
「いやつかお前も説明しろよッ! 嘘かもしんねーけどアマセが言ったこと、ある程度的を射てただろがっ。なんですぐここに避難しなかったんだよ!」
「この部屋に敵が先回りしている可能性を探っていたのです。そもそも――」
……神頼みは失敗した。
失敗したなら、残りは――――
「……っ、」
――軟禁中に思い付いた、あの愚かな戦術。




