「断線の」
「もしかして……そんなものが俺を危険視している理由なのか?」
「ほとんど事実じゃねぇか。おい、オメーら『平民』共も気を付けろよ!! どう使ってるかは分からんが下手に近付くと、魅惑の魔法で奴隷にでもされかねんぜ!!」
「チャームというのはなんだ?」
「しらばっくれないでくれるかな。君が今まさに使っている魔法だろ? 白々しい」
「おっと、俺達にかけようとしても無駄だぜ。魅惑は同性には効き辛れぇし、俺達は魅惑を防ぐ防護魔法を自分に付与してる。残念だったな」
「…………………………」
…………これが、トカゲの尻尾切りにあう政治犯の気分なのかもしれない。
そして、これほどまでに理不尽に、難癖をつけて好き放題言えるほど、思い上がってしまうものなのか。権力を持った――この場合、そう勘違いしている――人間達というのは。
「ハッ! 図星過ぎて返す言葉もねぇって顔だな」
「呆然としてるね、なんて解りやすい顔だ。でも、こんなもので済むと思わない方がいいよ、異端。近く我々は、君をこのプレジアから永久追放することになるだろうからね」
「すでに調査は始まってる。お前がプレジアに潜み、中から学校そのものを破壊し乗っ取ろうとしているタチの悪い反政府組織の一員であることは分かってんだ。だが残念だったな。そうそうテメェらアホ共の思い通りにはならねぇんだよ。この学校に、我々風紀委員会がある限りな」
「…………………………」
…………ダメだ。議論する気にもならない。
つまりこいつらが今俺に対してやってることは、現実的な拘束力や実行力を何ら持たない、憶測と偏見に塗れた誹謗中傷でしかない。
おまえはわるいんだ、おれたちはいいやつなんだ、やーいやーい、ばーか。
そう言ってるのと何も変わらない。こいつらは俺を悪者にしていい気分になりたいだけだ。
今こいつらについて考えている、この一分一秒一言一句一文字一瞬、全て何もかもが無駄でしかない時間だ。
こいつらが俺とリセルの関係、そして目的を掴んでいるかもしれないと、僅かでも動揺した俺が馬鹿の極みだった。
反吐が出る。付き合ってられるか。
得意げに続けている二人の言葉の一切をシャットアウトし、本を拾い集める。
厄介なことに野次馬は最初から増加の一途を辿り、図書室の入口からパールゥの姿は見えなくなっている程。無用な心配をかけてないといいが。
散らばった本を集め切り、よろよろと立ち上がる。
やはりこの重さと手間は不便だ。
今日だってもっと迅速に本を運べれば、こんな連中に絡まれることもなかったかもしれない。
だが後悔も後だ、今は一刻も早くこの場を――




