「憶測――――天地逆転の絶望」
『!!?』
――――静かなる騒然。
あまりのことに誰もが絶句し、顔を露わにした襲撃者を見つめる。
だが、男は頑としてうつむいたまま。
「答えた方がいいと思うけどなぁ」
「……事と次第によっては、私達は貴方がたの味方かもしれない。そう言っているのですよ、王国の忠臣さん」
「お、」
息を吐き、ナタリーが穏やかな声で襲撃者へと近寄る。
「貴方がたがリシディアの人間であることは、もうほぼ確定的なのです。アルクスが一晩粘っておびき出そうとしていても頑として誘い出されなかった貴方達が、ただ王女がプレジアの者にさらわれたというだけで全員飛び出してきた。これは貴方がたの忠節の表れです。任務よりも王族の命を取った。捉えようによっては立派なことじゃありませんか…………でもだからこそ考えて欲しいのです。今彼が言ったことを。貴方がたのリーダーが取った行動を」
ナタリーが他の襲撃者へも視線を向ける。
彼らは微動だにこそしなかったが……それが無視でなく逡巡の仕草であることは、面を剥がれた男を見れば瞭然であった。
「王女が映像に映し出された時、貴方達は目が飛び出るほど驚いたことでしょう。こんな所にいるはずのない王女が、お忍びでプレジアを訪れていたんですから。しかも悪いことに、そのお忍びに付き合わされてプレジアに来ていたのは貴方達のリーダー。任務に支障は出なかったのでしょうか、優秀なリーダーですね……ですが彼女も貴方達と同じ、リシディアのいち忠臣であることには変わりない筈。貴方達は王族を任務より優先しましたが、この場合任務を取るか王族を取るか、難しい所だったでしょう――――『任務か王族か』。この二択は動かない。動かないはずなのに……貴方達のリーダーは何をしました?」
屈み、ナタリーが面を剥がれた男の正面に立つ。
玉の汗に光る男の額。
「リーダーともあろう方が、すぐに転移を使って追われないようにすることが最善であることにも気が付かなかったのでしょうか? 無駄にプレジア内を飛び回り、無駄に傷を負い、挙句無駄に王女をさらわれ――――貴方達は全員が拘束される羽目になった。間違いなくリーダーは責任を問われますよね、うんと重い方向で。それなのに、彼女――――貴方達も聞いたでしょう? あの女は、この上なく楽しそうに嗤っていたのですよ」
汗の玉が床に落ちる。
「……私の最悪な憶測を問いかけます、襲撃者さん。あのアヤメという女――――この状況を楽しんでいませんか? 王女も任務も貴方達も自らの命さえも、刹那的な楽しみの為に食い潰す破滅的な思想の持ち主ではありませんか?」
「断じてッ!!!!」
男が、全身から怖気の汗を撒き散らしながら叫ぶ。
「我らの騎士長は――――断じてそんな方ではないッッッ!!!!」
「――――――」
「……君も人が悪いねえ。悪すぎだよホント」
「……何の話ですか、イグニトリオさん」
「しらばっくれないでよ。今の憶測が真実だったらさ……この作戦そのものが根底からひっくり返っちゃうじゃん。解ってるでしょ君なら」




