「離間――――気色悪き黒騎士」
「!」
「ま、魔動石……って」「学祭最終日に光るやつだろ」「部屋あるの?」
その場の者大半が困惑の表情を見せ、そのようにささやき合う。
彼らにとって魔動石の存在はそれほどに薄く――――こんな事態にでもならなければ、注目することも無い程度の存在なのだ。
「私も、確かには知らないんですけど。その表情だとあるのでしょう? アルテアス学長、兵士長さん」
「……プレジア内に散っている捜索班を呼び戻します」
「それがいいだろう」
「ボルテール兵士長来てくれ。頼みがある」
ガイツの言葉にオーウェンがうなずき、ペトラが駆け寄っていく。
その動きはどこか鷹揚にさえ見えたが――――ナタリー以下一部の者達は、心を波立たせずにはいられない。
耐えられず食ってかかったのはテインツだった。
「ちょっと待ってください学長代理。魔動石は、このプレジアを浮遊させている原動力そのものなんですよね!? 戦闘にでもなって、もしあの黒騎士が魔動石を傷付けたりしたら――!!!」
「焦っても何も変わらん。黙っていろ」
「娘の危機に泡食ってた人の台詞とは思えないですけど、まあ言う通りかな。落ち着きなよオーダーガード君」
ギリートが二人の間に割って入り、――その表情を神妙に整えた。
自然二人も、周囲も身構える。
「……先に話しておきたいことがある。黒騎士――――アヤメとかいう女の、気持ち悪すぎる矛盾を」
◆ ◆
「あ……アヤメが、」
「………………悪逆?」
アヤメがココウェルの背後で笑う。
あの顔……リセルが伝えてきていることに間違いは無さそうだな。
「急にハッキリ言うじゃないか。一体何の悪霊に憑りつかれ――」
「貴女はさっき襲われた黒い集団に見覚えが無いのでしょう? ココウェル」
「――!」
「え……な、なんであんたがそんな…………いや、でもそうよ。わたし、あんなやつら知らな――」
「騙されてはいけません、ココウェル。奴は私達の信頼を崩し再び王女様をさらおうと画策しているだけです」
「え、え。え……?」
「知らなくて当然です。その者達は王女の護衛とは全く別の任務で偶然、プレジアに派遣されていただけなのですから。その女をリーダーとして」
「あ……アヤメがリーダー?」
「すべて戯言です王女様、お聞き流し下さい。早く腕を回復していただければあのような悪漢、すぐに生け捕ってみせましょう」
「あ、え……う。あの、ごめんアヤメ。わたし……コレ、使ったことなくてその、うまく」
「…………」
――――あの見下げ果てたような視線を隠さないのは態とか否か。
「回復」という言葉からしてあれはマリスタを治療した治癒魔石だろう。上手く扱えないのなら好都合だ。
「……そう。その女が敵の隊長です。しかし俺が驚くのは、」
断片的に送られてくるリセルからの情報。
恐らく魔女も今、皆のいる場所で情報を集めてくれているのだろう。
だがしかし、それらの情報をどれだけ劇的に伝えても――――あの王女のことだ、俺とアヤメの言葉に半信半疑で動きが鈍るだけに違いない。
それでは俺の策は水泡に帰す。
まずはとにかく、ココウェルの心をアヤメから切り離すことだろう。
「その女は少なくとも、あなたの命などどうでもいいと思っているということですよ。ココウェル」
「――――、」
離れるに十分な、そして俺としても聞かずにいられない――この質問で。
「何を蒙昧な――」
「じゃあ聞かせてもらおうか。あんた……どうしてさっさとここに逃げなかったんだ?」




