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「憤懣――――魔波は雄弁に」



 殿下でんかと呼ばれたココウェルがあっけにとられ、目を見開く。

 俺の変わりようが効いたか、アヤメの微笑びしょうは程無く消えた。



 ……リセルの言う通り、か。

 こいつだ。



 こいつだけが、俺が倒すべき敵だ。




◆    ◆




「ケイ・アマセはまだ見つからんのか」

『はい。プレジア内すべてを捜索そうさくしていますが』

「魔波の探知たんちを主として捜索を続けろ。必ず感知できるはずだ……奴らがまだプレジア内にいて、魔波を隠してでもいない限りはな」



 言いながら、アルクス兵士長ガイツ・バルトビアは視線をナタリー・コーミレイへと向ける。

 ナタリーは悪びれもせず、同じく視線を返した。



「隠していることは本当に無いんだな?」

「何万回聞き返すんですか。ないですってそんなもの。あるとしたら彼の言ってた『黒騎士を倒す方法』くらいなものです」

コーミレイほどの者(・・・・・・・・・)が策の詳細しょうさいも聞かずに手放しで信頼する素性の知れぬ男。それがケイ・アマセとだいうわけか」

「勘違いしないでください。私が信頼しているのはあの異端(・・)ではなく……黒騎士くろきしによって重傷を負わせられたアルテアス家の嫡子ちゃくし、マリスタ・アルテアスです」

「……大貴族を妄信もうしんか。それで通ると思ってるのか」

話を逸らさないで(・・・・・・・・)いただけます?――――そら来ましたよ。目下、貴方あなたがたが一番気を使わないといけない存在が」

「――――――」



 ガイツが目だけを動かし、群衆を分けて現れた二人を見る。

 目を切り開いたその男――――プレジア魔法まほう魔術まじゅつ学校がっこう学長代理、オーウェン・アルテアスはガイツの前を一瞥いちべつのみくれて通り過ぎ、生徒会長ギリート風紀委員長リアの前に立った。

 かたわらにはエマ・アルテアスも一緒だ。



「どういうことだ?」

「……おっしゃりたいことはわかります」

「学長代理。現状を言葉を選ばず言いますとね、『十分想定できた最悪の事態が起こってしまった』というだけです。お嬢さんの大ケガも想(・・・・・・・・・・)定内のことです(・・・・・・・)よ」

『!!』



 エマが悲痛な表情を浮かべる。

 オーウェンがこれでもかと目を見開くと同時に魔波まはの重圧が辺りを襲い、構えていなかった者達が残らず一瞬息を詰まらせる。



 ギリートの頸動脈くびへと伸びたオーウェンの手。



 その手をつかんだのはリア・テイルハートで、



「……何のつもりだ。兵士長」



 オーウェンの右肩に、背後から巨大な刃を向けたのはガイツ・バルトビアだった。



「彼らの言う通りです。事態は最悪ですが――これは考えられた事態です」

「そうか。では娘の安否は問うまい。では敵の行方は? 想定内であれば当然見当はついているのだろう?」

「……いいえ」

「それを『想定外の事態』と言うのではないのかッ!!?」



 魔波が風となって三人をす。

 図星を突かれ表情を険しくするガイツとは裏腹に、ギリートとリアはいまだ平静を保っていた。



リアがオーウェンの手を離し、彼とエマの前でもう片方の手を開く。

その手の中にあったものを見て、エマが目を丸くした。



「……記録石(ディーチェ)?」


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