「拙速――――無知なるものたち」
(マリスタが示した、「黒騎士にとって王女が守るべき存在でない」可能性。それはつまり――――この計画が根底からひっくり返る可能性の提示。私達の計画は「臣下共が王女に傷一つ加えようとせぬ忠臣である」ことが前提になってるんだから!! でもどうして? 論理が無い!! どんな理由があって側近が王女を守らない? クーデター? いや違う、クーデターならあんな箱入り娘を人質に取るよりよほどいいやり方がいくらでも――――)
先走り、様々な可能性と疑問へと行き当たり続ける我が頭脳に歯を軋らせ――――ナタリーはやがて転移の白に飲み込まれた。
辿り着くは第四層。
職員室のほど近くにある空となったアルクスの詰所を破り、ナタリーはその扉の前にたどり着く。
「ケイさんッ!!」
『!!』
扉の上部中央にある格子窓から中を見る。
その意外な光景にあっけにとられかけた心を制し、少女は声を張り上げる。
「――貴方言いましたよね!?」
「な……ナタリー? どうしてお前が、」
「つべこべ言わずこれで飛ぶッ!!」
格子の隙間から。
黒い魔石が、圭の手に渡る。
「早く飛べッ!!」
「――そうなったんだな、」
「早くッ!!!」
「ああ。解った」
その言葉を最後に。
天瀬圭の姿は、影も形も無くなった。
『――――……』
後には、圭のいた場所からわずかな黒煙が立ち昇るのみ。
(――――私が、)
ナタリーはそのまま扉の前に崩れ落ち、頭を強く打ち付ける。
(私がすべてを知っていれば……こんなことにはさせなかったのに!!!)
王女の来訪に気付かなかったことも。
襲撃を許したことも。
真相にたどり着けないことも。
アルクスに目算を狂わされたことも。
総て悉く、後手だった。
後手に回り続けたあげく、今回もまたマリスタを危険に晒し。
「…………託しましたから」
今回もまた、得体のしれない男に全てを懸けるハメになっている――――
「託しましたからね、ド畜生ッ……!!!」
◆ ◆
それは、大木の根のように伸びた魔石だった。
全貌を把握できない程の大きさをした、白を基調にする大きな根。それが虹色に明滅を繰り返し、さながら鼓動のよう。
俺はそんな魔石らしきものの、実に不安定な位置に立っていた。
根を踏み外した下には、蒼空と広大な森が広がっている。
慣れ親しんだその光景は、間違いなくプレジア魔法魔術学校を取り巻いている広大な樹海。
つまりこの見慣れない場所は、依然としてプレジア内部であるということだ。
しかし何度思い返しても、こんな生命の根幹を感じるような光景の部屋はプレジアのどこにもなかったように思う。
俺の真横には、拳より少し小さい程度の、金の細工に囲われた黒い宝玉が浮く。
見た目と魔波から察するに、恐らくはこれが携帯転移魔石の親石。
つまりここは、文字通り襲撃者共の根城――――




