「疾走――――悪寒に背押されひた走り」
「さっさとブツを寄越しなさいハイエイトさん!!」
「だから、なんでオメーはそんな焦って――」
「つべこべ言わず渡すッ!!!」
「だあぁっ、分かったっつーの!! ホラ、これでいいんだろ!?」
ロハザー・ハイエイトから小さく黒い、手のひらに容易に収まる程度の飴玉のような魔石を受け取り、ナタリー・コーミレイはすぐにロハザーから十数歩も離れた。思わずロハザーが身構える。
「……あんた、ホントにコーミレイだよな?」
「何変装を疑ってんですか糞馬鹿らしい。魔石を破壊されるのを恐れたんですよ」
「破壊って。俺がンなこと」
「『そこの襲撃者が』に決まってるでしょう。ホント阿呆ですね貴方は」
「は――破壊!? っおいテメー、まだ何か隠し玉があんのか!」
襲撃者に絡み始めたロハザーを置き、ナタリーはヴィエルナの見ている前でその魔石を矯めつ眇めつ確認、のち襲撃者を見る。
襲撃者は彼女の視線を受け、露骨に顔を逸らした。
ナタリーはそこに恨みがましい視線を感じる。
(……どうやら、この距離ではもう壊せないようですね)
「っ!? お、おいコーミレイ――」
「ケイに届けに行くの?」
ヴィエルナの言葉がナタリーの足を止める。
どこか恨みさえ籠ったその目に、ヴィエルナはコクリと首肯を返した。
「私も信じてる。『俺にしかできないやり方で勝てる』って言ったあいつを」
「――私は別に信じてませんけどね!!」
吐き捨て、ナタリーは走る。
背後で巨大な魔力と熱を感じたのは、その少し後だった。
(――――糞っっ!!)
親友の作戦が成功するなら、それが最良だった。
しかし、この作戦に保険をかけるようナタリーに願ったのは他でもない――――マリスタ・アルテアス自身だったのである。
〝……ねえ、ナタリー〟
〝何です?〟
〝自分が守る王女を、ボコボコにされてさ。それなのに、ボコった相手に「よくやった」って言ってくる騎士なんて、いると思う?〟
〝……何の話ですか?〟
〝答えて〟
〝……そんな騎士が居たとしたら。その騎士はきっと、王女を守るつもりなど欠片もない。そう捉えていいのではないでしょうか。――――待ってくださいマリスタ、それって〟
〝……ナタリー。やっぱり私、あんたにケイを動かす方法を考えといて欲しい〟
背後で繰り広げられる、想定外の想定内に、ナタリーは敢えて目を向けず、一心不乱に転移魔法陣へと駆ける。
(魔波の一つはイグニトリオ。もう一つは知らない。つまり敵。なんてこと――――どっちもほぼ同程度の圧と大きさなんて!)
敵がマリスタを殺害し転移、魔石を破壊するのが先か。
自分がケイに魔石を預けるのが先か。
しかし――――果たして預けたところでケイに勝機があるのかどうか。




