「かくて舞台に残った者は」
◆ ◆
ガイツが告げんとしている言葉を悟り、誰もが耳を塞ぎかける。
しかし。と、人々は周囲に視線を投げる。
一瞬のことだった。
数分前には、速すぎる勝鬨さえ上がっていたというのに――
――本部は壊滅。
――王女の確保は失敗。
――計画の発起人だったマリスタは瀕死。
――一般人にさえ被害が出た可能性がある。
襲撃者の確保には成功したが、それは局所的な勝利でしかない。
ことが落ち着き、その後。
一体どれだけ、プレジアに――――リシディアに、危機が迫ることだろう。
……やがて全員が、絶望に包まれた。
打ちのめされ、途方に暮れ、無力に、虚無に苛まれ――一人、また一人と肩を落としていく。
『――――今回の作戦は――――』
◆ ◆
〝ぷっ……〟
〝仕方ないよな???――――カスが何人犠牲になろうが〟
(…………ああ。畜生)
「先生ッ! おい先生ッ!!! 何をボサッとしている、早く負傷者を――」
「…………気付くべきだった。あの女は――」
「――何を言ってる?」
◆ ◆
「お、おい大丈夫か会長っ」
「――王女を守るつもりなんか、これっぽっちもなかったってことか……!!!」
「……何だって?」
◆ ◆
『――作戦は失敗だ』
『まだ。終わってません』
――――戦力外の少女の声が、絶望に沈む人々の鼓膜を揺らす。
『――誰だ?』
『中等部六年、グレーローブ義勇兵。ヴィエルナ・キース。作戦、まだ終わっていません』
『ど……どういう意味だ!』
ペトラの声。
全員が固唾をのみ、少女の言葉に耳をそばだてる。
全てを悟った少女は至極冷静な調子で告げた。
『携転石。まだ一つだけ、生きています』
『何ッ!?』
『持っているのか?』
『いいえ。持っていかれて……きっともう、使われました』
『は――!?』
『ふざけた言い回しを止めろッ! 誰が持っていった? 一体誰が使ったというんだッ!?』
『……彼女は、たぶん……』
〝貴方は黒騎士に勝てますか?〟
『……いいえ。間違いなく、彼に』
◆ ◆
小さな格子窓のある扉に、頭を預け。
「…………託しましたから」
ナタリー・コーミレイは、祈るように目を閉じた。
「託しましたからね、ド畜生ッ……!!」
◆ ◆
「ひ、ひえ……!? ど……どこなのここ。その石で転移んだの? ねえアヤメっ」
「少し安定した足場へ移動します」
「うひょっ!??! いっ……ッたいわね!! 飛ぶなら飛ぶって言えよ! ったく、ホラ降ろせ! んでさっさと答えろ、あの黒い奴ら一体何――」
「何も」
「――え?」
「貴女は何も知らなくてよいのですよ、王女」
「……は……?」
「治療を」
「え。え?」
「私の懐にある治癒魔石で、左腕を治していただけますか? 魔力をほとんど残していないのです」
「わ、あ……わかったわ、えっと……コレね」
「お願いします」
「しゅ、集中するっ。あ、後でちゃんと説明してもらうから――――」
「…………あなたは本当に愚かな方ですね。王女様」
「――――なんでいるの、」
「!」
傷の向こうを見る王女の視線。
その先は今しがた移動してきた、携転石の親石がある場所。
「……!!」
在るはアヤメが予想せず。
しかし最も、興味を持った人物。
「――――もはや神の導きだな。そう思わんか? アマセ」
「ケイ……!!!」
――名を呼ばれ。
天瀬圭は、手の中の携転石を握り締めた。




