「作戦崩壊」
部屋を満たす青の魔光。
黒騎士を中心に展開された無数の光斬を包み込むように――――壁が見えなくなる程の流弾の砲手が張り巡らされ、
「あああああぁぁああああ――――――ッッッッ!!!!!!!!!」
マリスタの裂帛と共に。
水面のような輝きをたたえる弾丸が全て、虹色の光を帯びる。
その状況に。
「っ――――あっはははははははははははははははははははははははは!!!!」
女は、この上なく楽しげに笑ってみせた。
「――――うおっ!!?」
「ッ!!?」
爆音。そして吹きすさぶ魔波。
水飛沫と共にトルトとペトラのもとへ吹き飛んでくる、風紀委員室の鋼板の扉。
風紀委員室周辺は水煙に包まれ、何が起きたのかさえ判然としない。
「嬢ちゃんッ!! 風紀委員長!! いるなら返事をしろ、嬢ちゃんッ!!」
「先生――あれを」
水煙の中に浮かび上がる、ポニーテールのシルエット。
よろよろと歩み出でたその少女は、二人が劇で確かに見たタタリタの衣裳を身にまとっており。
その人物がマリスタ・アルテアスであると認めた二人は大きく安堵し、
「末恐ろしいガキだ。『アインスリュカル』の斬撃をすべて相殺した上……私にも一発打ち込んでくれるとは」
『!!!』
「ごめ、なさい……先生。兵士、ちょ……」
ゴギン、と。
口から血をあふれさせたマリスタが背を、背骨の可動域を超えて仰け反らせながら――――二人の下へと吹き飛んでくる。
「ッッッ!!!! 貴――――様ァッ!!!!」
ペトラが得物を手放し、吹き飛んできたマリスタを受け止める。
背骨を折られ、だらりと垂れる赤毛の身体。
視線を戻したトルトの前に現れたのは、
「――左で防がなかったら危なかったかもな」
左腕を肩からぶらぶらと垂れ下げ、右腕に王女を抱えた黒騎士の裂けそうな笑み。
「――――――――――――――」
空間が揺れたかと錯覚するほどの魔波。
呆然と、しかし猛然と音も無く黒騎士に迫ったトルト。
しかし女は見もせずに、
「破壊しろ」
何か、命令のようなものを、小さく発し。
何か、小さな小さな魔石を、懐から取り出した。
「――――――――――――」
首を飛ばさんと拳を振りかぶった、トルトの眼前で。
わずかな黒煙を残し、黒騎士と王女は消え失せた。
◆ ◆
『了解』




