「血濡れ果てる無血」
灼熱からあふれた光斬を受け、一人またひとりと障壁を破壊され吹き飛んでいく義勇兵たち。
アルクスの者達も状況を飲み込めず、トルトの指示に従って魔法障壁を展開するほかない。
しかし――
(――長くはもたんぞ。十数秒のインターバルが要る精霊の壁では――!!)
「――状況を説明しろザードチップッ! 相手は黒騎士なのか!?」
「ああそうだッ!! よく聞け兵士長、あのイカレ野郎は――」
黒影が。
『!!!!!!!』
「――――ッああッ!!!」
瞬時に追いついたペトラの追撃を躱し、
「やめろおおぉッッ!!!!」
「奴を止めろッッ!!!」
ペトラ、ガイツの声も虚しく義勇兵達へ迫り、
「――の憑代ッ!!!」
アヤメが放った巨大な光刃は、雷速で駆けたロハザーの障壁により受け止められた。
「ぬうァああああああああああああああああああッ!!!」
「ロハザーッ!!!」
「はは……」
はははははははははははッッッ!!!!!
獣性にまみれた笑い声が戦士たちの耳朶を震わせる。
眼前の破顔に怯むロハザーの障壁がひび割れる。
「ッッッ――――雷霆の」
障壁が砕け。
「槍ァァアああああああああッッ!!!!!」
出来もしない詠唱破棄で放たれた不完全な雷槍は光斬に勝ち得ず、
「――――ロッ、」
血の弧が、空に刻まれる。
「何だったかな? 作戦名は」
「ロハザーッ!!!!!!」
血の雨を降らせながら崩れ落ちるロハザー。
呆然とする参加者の一般人。
駆け出すトルトとペトラに黒騎士を任せ、指示を怒鳴り上げるガイツ。
「――――防護結界の準備をして!!」
リアが叫ぶ。
現実に、ようやく本部と――マリスタが追いつき始める。
「――逃げろ。逃げろ私ッ!!!」
「ね、ねえ――――ちょっとッッ!!?」
近場の壁に頭をぶつけたマリスタが逃走を再開する。
予想外の方向からの魔波にあてられ止まっていた意識に鞭打ち、眼前に迫った風紀委員室への廊下を風のように駆け抜けていく。
「お、おい!! 呼んでんだろが貧乳ッ!!」
「うっさい! 今は黙って!!」
「走りながらでいいから教えろッ!! 誰だったんだよあの黒い奴らは!!」
「黙れっつってんのが――――――――」
「――――――――今なんて言った? あんた」
「は?? いやだから、あの黒――」
「正直に答えてッ!!! もう一度きくわよ、アンタ本当にあの黒装束の知らないのね!!?」
「うるせーなそう言ってんだろうがッ!!! マジでビビったんだからなさっき集団で襲われたと――――きっ!!?!」
風紀委員室への最後の距離を瞬転で詰めたマリスタが中へ飛び込み、前のめりに倒れながら叫ぶ。
「結界張ってッッ!!!! 早くッ!!!」
「展開!」
『はい!!』
術者らが詠唱を終え、光が四方に散り部屋をコーティングし始める。
つぶれたココウェルなど気にもかけず出入り口の向こうを見るマリスタ。
追手を逃れながら迫るアヤメは、まだ十分遠くにいた。
(逃げ切れる……!!)
「マリスタ、大丈――」
「聞いてリアッ、皆に連絡して!! 今回の件に王女は関わっ
って、」
――――マリスタは一瞬、自分が何を見ているか解らなかった。
視界を奔った黒影。
時が止まったように硬直する本部の人々。
向けた目線の先には――
「ああ、王女――」
――反転した体で、空で顔だけをこちらに向けて笑う黒騎士。
その足には瞬転に似た魔力の気配。
それが無境瞬転による長距離超速移動だとマリスタの頭が理解したときには、
「――伏せないと当たりますよ?」
光の斬撃は、
「――――ダメ、」
室内の全方位に、展開されていた。
「ダメえぇぇぇェェッッッ!!!!!!!!!!!!!」




