「口裂け女」
「仕方ないよな? これじゃあ」
その常軌を逸した笑みに吸い込まれ。
ギリート・イグニトリオは、真横を奔った光に全く反応できなかった。
極光、そして轟音。
数瞬遅れたギリートが振り返った先には、展開した魔法障壁を破壊されたトルト・ザードチップの姿。
と、参加者の姿。
(――――――――――は?)
参加者の、姿。
「な、なんだなんだなんだァ!?」「今黒騎士の奴……俺達狙ってたよね?」「なになに、エキシビションだと思ってたらこの戦いにも参戦できるの!?」「演出コッってるねーこのイベントは」「面白れぇ、やってやろうじゃ「逃げろ……」
盛り上がる観衆の声を遮るトルトの声。
ぞわりぞわりとギリートの脳髄を這いあがる最悪の確信が、一秒ごとに彼を支配していく。
〝ぷっ……〟
(――――ああ。あの笑い声を聞いた時、気が付くべきだった。奴は、)
背後から。
「――――ボサッとしてんじゃねーぞイグニトリオッッッ!!!!!!!!!」
思考さえかき消す光が、彼らを照らす。
「あれは王女だ。何を差し置いても絶対に守るべきこの国の要だ。でも今のままじゃ助けられないから、だから仕方ないよな???」
ギリートが振り返る。
視界には裂けんばかりの笑みの黒騎士。
その左腰にある光の鞘。
そこから、
「助ける為に、カスが何人犠牲になろうが」
騎士の背後に装填され続けている、無数の光の斬撃。
「――――四天滅却の火明ッッ!!!!!」
空間を捻じ曲げんばかりの火の魔力がイグネアに収束し。
視界全て覆い尽くす灼熱は、放たれた光斬と激突した。
『きゃあああぁぁぁぁっ!!?』
『うおおおおおぉおぉッッッ!!!?』
熱波と魔波の嵐が人々を襲う。
逃げろと叫ぶトルトの叫びなど、最早かき消される雑音に過ぎぬ。
光の斬撃が灼熱を豪雨のように叩き砕き、殺し切れなかった斬撃がいくつも貫通していく。
光斬は無差別に人々に降りかかり、
『精霊の壁ッッ!!!』
駆け付けた義勇兵・アルクス達の障壁により、相殺されていく。
「ぐおっ!!? い、一撃で――」
「渾身の魔力注ぎ込んで防御しろ!! ヘタに展開すると障壁ごとぶった斬られるぞッ!!!」
う――――おおおおおおおあああああぁッッッッ!!!!!!




