「完全勝r」
「うーわ。あんな遠くに拳圧ぶつけるとか、そんなことまで出来るんですか先生って」
「みたいだ」
「えぇ他人事……?」
「ごちてるヒマあんなら追撃しろ。アレ相手に打撃は決定打にならねえんだぞ」
「りょーかいです!」
ギリートが砂埃の霧を突き抜ける。
閃いた刃は、マリスタへと音も無く迫る黒影の背後をあっさり捉え引き止めた。
「っっ――――姫様ッ!!」
「!!」
悲痛な声に、マリスタに抱えられたココウェルが顔を上げる。
ギリートはアヤメと正面から鍔競り合い、両者の視線を遮った。
「い、イグニ――」
「止まるなよこんなところで! もう少し行けば勝ちなんだよ、変な情を持つのは後にして!」
「っ!――わ、わかった!」
「姫様ッ! 姫様ァッ!!」
「ちょ――――ちょ、っと!! おろせっ! 下ろせよお前っ!! アヤメが――」
ココウェルの不安げな声が遠ざかっていく。
ギリートは小さく安堵し――――直後鍔競りを解いて王女へと駆けようとしたアヤメと斬り結ぶ。
「うお……君剣速も力も上がってない? 火事場の馬鹿力ってやつか」
「ふうぅッ――――!!」
「でもそれ……限界近いですって宣言してるようなものだよ」
ギリートの目つきが変わる。
一息数十合にも及ぶ豪速の剣戟の中、ギリートが徐々にアヤメを圧し戻し始める。
「ぐ――姫様!! 姫様ァッッ!!!」
叫び声。
鉄火と鋼音と火の粉の嵐を貫いたその声は確実にココウェルの、マリスタの心を揺らし、しかし届かない。
全ての斬撃が急所を狙う一撃必殺の刀技。
その絶技を、神の装束をまとった少年は全て往なし切り――――遂に、終結は訪れた。
左から首筋に迫った一撃。
ギリートは太刀筋を遮るよう両手で首筋にイグネアを添え立たせ、腰を落としながら前進。
「っ!!」
「――――」
かち合った黒刀に押さえられ、下がるイグネアの剣身。
しかし同時にイグネアは黒刀の刃に沿って鍔へと迫り、ギリートは黒騎士の懐深くへと入り込み――――
黒騎士が飛び退ろうとしたときには、もう遅かった。
「――やっと崩れたか」
一筋の血の閃光が、二人の剣士の間から迸る。
アヤメが黒刀を離し――――否、腱を断たれた手が黒刀を握れなくなり、機能停止する。
離れる両者。
顔を伏せ、動かなくなるアヤメ。
上げられた腕の中、力無く垂れ下がる彼女の左手。
(――――これで護衛は戦闘不能)
『生徒会長、トルト先生!! たった今、襲撃者全員を拘束したとの報告が入りました!』
「おう、ごくろーさん。こっちも終わるぜ」
(――――敵軍も全滅)
「アヤメっ! アヤメーっっ!!」
(王女はもうじき本部の保護下……護衛が最期まであがこうとしても、すぐに全アルクスと義勇兵が援護に訪れる)
どこからともなく歓声が上がる。
うるさそうに顔をしかめるトルトの視線の先では、勝負を決したギリートと刀を落としたアヤメを映す映像。
沸く観衆。そして本部。
その渦中、ただ一人沈む黒き騎士。
「……勝ったな。お疲れさん、生徒会長」
(――――これで――――)
◆ ◆
(――――勝った?)
〝よくやった、うつけ〟




