「少年よ、大志を抱け」
短く返し、油断なく敵影に肉薄する。
炎をまとった魔装剣に、敵は手にした黒剣で対抗してくる。
黒煙を使う気配は見せない。
(やっぱりだ……黒煙にはインターバルが――)
黒煙。
「ッ!?」
精霊の壁。
技後の硬直を狙ってきた襲撃者を危なげなく受け止め、同時に用意した神火の群舞で相殺。
直後放たれた足への一太刀も危なげなくいなし、再び離れていく襲撃者を見失わぬよう目を光らせる。
襲撃者は先程共闘した義勇兵に急襲され交戦開始。
やはりすぐには黒煙を見せなかった。
「――総員に報告です。敵の『黒煙魔術』は中級基本魔法程度で相殺できます。そして黒煙魔術には短い使用不可時間があるようです……連発されることは無いと思われます!」
『了解』
『いい情報だよ、義勇兵君』
『ありがとうございます!』
『それでいいんだ、テインツ。過去に依り過ぎず今を見つめろ』
「……今を……」
――ペトラの言葉を最後に通信が終わる。
少年は再び、眼前の状況を広く捉える。
戦っている者。
報告をしている者。
迫ってくる者。
流れる魔素。
空気。
イベント進行の声。
周囲を旋回する記録石。
記録石の先で、
「な、なにを記録石見つめてボーっとしてるのよ、あの馬鹿は……!」
「……シータ」
「なんだわよリア。神妙な顔で」
「たぶん、あなたじゃない? 見てるの」
「――――――は?」
――先で、自分を見つめる「今」このとき。
「――――熾きろ」
――渾身の魔力を込めた炎帝剣ヴュルデが灼熱に輝き。
苦戦し始めた義勇兵二人に迫った黒煙を、遮った。
「! 風紀委員、」
「しばらくは後方で援護を頼むよ。前衛は僕と交代だッ!」
灼熱に堪らず後退していく襲撃者。
その方向に灼熱を薙ぐテインツ。
剣筋は真っ直ぐ襲撃者へと伸び切り――――唐突に、爆ぜた。
『!!?』
吹き飛ぶ黒に、
「まだまだッ!!」
ベージュローブの少年は、更に追いすがる。
たまらず剣を振るい牽制する黒。
しかしテインツは黒剣の届かぬ遠くから剣を振り、その軌跡だけを地に、空に数多刻みつけ――ただ爆発させる。
視界を爆炎に埋め尽くされる黒。
果たして、たまらず障壁を展開した襲撃者の背に、
「仮初の就縛」
しかと、魔法障壁を透過した少年の手が当てられた。




