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「早計動揺、だから」



『おっと、そうだった。ビージ、そういえばこいつには分かりゃしないよ。僕たちの言葉は』

『あァ、そういやそうだったか。チッ……本来なら通訳魔法を使うべきはこいつなんだが。なんで俺達がこいつに配慮しなきゃいけねぇんだよ。糞野郎が、死ねよ』

『はは。言葉が過ぎるよ、ビージ。お前の悪い癖だ』

『聞こえてやしねぇよ。この馬鹿が、死ね! ハハハッ』



 俺を見て何かを笑いながら、指を赤く光らせる二人。その顔から、奴らが何を考えているかは容易よういに知れた。

 大柄が下卑げびた笑みを浮かべる。



「おい、聞こえてるかよ? まったく、世話のかかる異端だぜ』



「……異端いたんとは。同じ人間に対して、それはまた酷い呼び方だな」

「お前と我々を同じにするな、異端。そも生まれからして、我々とお前とでは世界をことにしているのだから」

「ッ!!?」



 ――――今なんと言った。



 動揺を隠しきれなかった俺を見た細身が、四角い眼鏡の奥でニヤニヤと笑う。

 大柄が俺の落とした本を拾い上げ、表紙を眺めた。



「暗殺技術、相手の裏をかく心理戦術、傭兵ようへいのいろは……おっと、爆薬と毒薬の調合までありやがる。随分陰気(いんき)な本を読んでんじゃねぇか、異端」

「……返してくれるか。どんな本を読もうと勝手だろう」



 心を落ち着かせ、それだけ言って本を拾い――――集めようとした本を、また腕からひったくられた。

 再び突き飛ばされ、固い床に顔をしたたか打ち付ける。



「ひでぇ本ばっかだ。検閲けんえつして正解だったな。まるで人殺しの計画でもあるみてぇじゃねぇか、えぇ?」

「――――!」

「ホントホント。君、素性は誰にも明かせないんだって? 一体どんな経緯いきさつがあれば素性を隠して生きなきゃいけなくなるんだか」



 ……何が起きてるんだ、今。目の前で。



 俺と魔女の計画は、あの場にいた俺達しか知り得ないはずだ。まさか、盗聴とうちょうか? 風紀(こいつら)ならやりかねないか――――だが、これまでずっとプレジアで校医を続けられているリセルが、そう易々《やすやす》と盗聴を許すようなタマだろうか。

 だとしたら何だ。どうしてこいつらが復讐の話を。

 まさか魔女の奴が俺を売って――――

 


「……早計そうけいだ」

「あ?」



 それを結論付けるのは早過ぎる。

 こいつらの言葉に、確信的な情報は何もない。魔女が俺を売った可能性も十分考えられるが、それが全てではない。

 何者かの指示で、俺にカマをかけているだけの可能性もある。

 あの性悪な魔女のことだ、もしかするとこいつらをけしかけて俺を試している可能性も捨てきれない。

こいつらの独断による単なる難癖なんくせの可能性も。



 今俺がやるべきは――とにかく情報を引き出すこと、そして状況の把握はあくに努めることだ。



「……俺は本を返せと言っただけなんだが。返せないなら返せないで、せめてまともに返答をしてくれるか」

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