「ふたたび闇に沈むのか?」
静かな声が、嵐をも貫き敵軍へ動揺を伝える。
動揺の伝播は否応なく、受けたる者の動きに影響を与えるものだ。
「はァッ!!」
「バレバレだよ!!」
「動きがニブいぜぇッ!」
ガイツの頭部へ目掛け拙速に押し寄せた黒の群れを、テインツとビージ、ペトラが押し止める。
「お前達二人でそいつをやれ!」
『了解』ィ!」
先んじたビージが両手に砂塵の光をまとい、襲撃者の黒煙をまとった手と短く肉厚な剣を受け止め――――彼の肩口から、テインツが敵へ人差し指を突き出した。
「仮初の――」
反転。
瞬時に背を地に倒した襲撃者につられ動いたビージがテインツを阻み、仮初の就縛の弾道を塞ぐ。
数多の鈍音。
「ぐッ……ぶ……!!?」
ビージの顔面に力がこもり――敵に蹴り飛ばされる。
「!? ビ――」
――テインツは視界の端へと消えていく友の身体から、いつか感じた闇の魔波が揚がるのを見た。
(暗弾の砲手――魔力回路の不活性化を喰らったのか!)
少年の眼前に。
黒煙が、迫る。
「ッあ――熾きろ!!」
発光した赤い宝玉が爆炎の盾を展開。
しかし黒は既に背後。
〝いや……やめて、やめてぇぇええええぇぇぇっ〟
「――――クソッ!!」
振るわれた黒剣を受け止める。
敵の左手が黒煙をまとう。
「っ神火の群舞!!」
火属性中級魔法を近距離で発動。黒煙を相殺したテインツは爆風に足を取られ、幾度も後転しながら吹き飛んだ。
「く、っあ……!」
じくりと痛む掌。
だがそれは、
〝……戦えない女の子だぞ!!!〟
決して、先の神火の群舞が原因ではない。
(……なんてザマだ。怖がってるのか、僕は……!!)
視界に敵がいない。
「ッ――!!? う、あ」
魔光。
とっさに展開した障壁に、テインツの右から迫った黒煙の手が遮られたのである。
テインツの背筋に走る冷や汗。
動く眼球。
広げられた真っ黒な手が、視界を闇に染め――
「飲まれるな。馬鹿者」
――間欠泉。
眼前の闇を裂くように降った水の刃がテインツの足元に突き刺さり、清涼な飛沫が彼の顔を濡らした。
やがて彼を守る女神のように、銀髪の兵士長は地に舞い降りた。
「……ボルテール、兵士長」
「捨てろ。テインツ」
「え――」




