「PHASE19:敵 ノ 正体 ヲ 暴ケ!!!!」
◆ ◆
闇を帯びた黒い手が。
マリスタの頭を掴まんと、伸びてきた。
『ッ!!!』?」
どこからともなく真っ直ぐに現れた影のような黒。
すんでのところで頭を捕らわれそうになったマリスタが一瞬早く頭を逸らし、
「ぐっ――!!」
「わぎゃンんっっ!?!?」
左に傾いたまま片足で瞬転。
無軌道に飛んだ体を無理やり捻り――――失敗。
背中の左を鞭打つようにして建造物に激突する。
「づ、っふ……!!」
「っってえ急に跳ぶなお前舌噛んだだろうが血が流れた王族の血がッ!!! わたしがここに抱えられてんだぞ頭でもブツけてたら死んでたろ今ッ!! お前が死ねこのクッ――――」
――この女は、私が頭をぶつけないように体を捻ったのではないだろうか。
そう自分を見上げるココウェルにも気付かず、
「ごめ、また跳ぶよ」
「え何ぃいいぃいぃんっっっ!!??!」
その壁を蹴り、更に瞬転。
黒煙をまとい繰り出された手と――――その人物と空中で馳せ違う。
「水神の御心ッ!」
「わぷっ?!」
再度捻転、空中に発生させた水泡の弾力に背を預け、人影に――――とうとう炙り出せたその相手に、体を向ける。
「……ハロー。あなた達ね、『襲撃者』ってのは……!!」
疲労と不遜のにじむ笑顔を襲撃者に向けるマリスタ。
彼女の目に映る黒装束はしかし、既に一人ではない。
視界の端から、中央から、上空から地上から背後から――自分に迫る黒煙の手の独特な魔波を感知すれば、十人を優に超える人数によって彼女らは包囲されていた。
「!? あ、あんた――」
ココウェルの困惑。
全身の力を抜き、王女を抱えたまま水泡からずり落ちていくマリスタ。
黒装束の襲撃者は、油断なく全方位からマリスタを黒煙の手で取り囲み――――
――その全てを、妨害された。
『!!!』
襲撃者たちの動揺が空気を伝う。
それを感じ取り――――防衛者達は勝気に笑う。
「よう。俺の顔を覚えてるかよ、テメーら」
「よく耐えたね、マリスタ」
「しかしまあどこからともなく湧いてきたものだ。蠅のようにワラワラと」
「これだけの人数がどこに隠れてたんだか……ま、」
「ああ。んなこたァもうどうでもいい!」
ロハザー・ハイエイト。
ヴィエルナ・キース。
ペトラ・ボルテール。
テインツ・オーダーガード。
ビージ・バディルオン。
アルクス、風紀委員と義勇兵コースの者達――――プレジア魔法魔術学校が誇る精鋭。
ガードヒーローらに、ガイツ・バルトビアは――――静かに指令を下す。
「一人残らず、怪我を負わせず拘束する。こいつらは間違いなく――――リシディア王国の人間だ!!」




