「PHASE18:GO!!」
「――この――」
黒騎士の目に怒りが灯る。
「――――え、あっ」
ほんの一瞬、王女を忘れ怒りに満ちる。
「――――――ッッッ!!! お――」
その瞬間を見逃さず、マリスタはココウェルに飛びかかった。
「準備完了、ですね♪」
「ったく、いつまで引っ張らせるんだあの嬢ちゃんは」
「王女様ッッ!!!!」
一つに結んだ黒髪を振り乱し、弾けるように飛び出すアヤメ。
しかし二人の最強はこれまで以上に彼女を阻む。
マリスタに文字通りお姫様のように抱きかかえられたココウェルは、全力でその身を捩らせる。
「うわちょ、何そのキモい動き――ってこら! テキトーに暴れまくるんじゃないわよ人の腕の中で!!」
「降ろせクソアマ!!! コラ!! オイ!!! 殺すぞお前マジで触んなわたしに!! 王女に触んなッ!!! アヤメ、アヤメーッッ!!!」
「いっだいだだだ目を突くな目を!?!???! このクソ……げふん、ちょっと――落ち着きなさいってのこのバカ王女ッ!」
「いぎゃぁあああああああいっっ?!?!?!? 誰の内股ツネってんだお前このアマァ!! ぜってーぜっっってー殺してやっからお前!!!」
「はいはい後でいくらでも殺されてやるから今は大人しくしてなさいバカ王女! こっからが一番危ないんだからね!!!」
「い――危ないって何――」
◆ ◆
「アルテアスさんが王女を確保しました!!!!」
『!!!!』
「映像映ってます!」
「参加者に連絡は!?」
「連絡済みです、今から――」
『皆さん、映像をごらんください! 今入った情報によると、第二層転移魔法陣付近で黒い騎士と戦っていたガードヒーロー達が、無事に王女の奪還に成功しました!! でもこれから、第二層にいるガードヒーローの周りは大混乱になることが予想されます! みなさん、風紀委員の指示に従って道を開けてください! みなさんが奮戦し、敵の軍団を押し退けてくれたからできたことです、本当にありがとう!――』
リリスティア・キスキルが即座に一般客へ指示を飛ばす。
映像に大きくマリスタが映り、本部の面々にいよいよ緊張が走る。
「王女の確保」。
これは計画段階で最も危ぶまれた、作戦の成否――――そして何より正当性が決定する最終段階なのである。
「リア!」
「大丈夫。もう指示したよ、ナタリー」
「アルクスへは?」
「それも完了――受け入れ準備は出来てますか?」
「バッチリです!」
「王女収容後、すぐ防護結界展開できます!」
「――分かりました」
ナタリーが拳を握り締め――――いつぞやか、マリスタが途方もない雷撃の雨に打たれていた時のことを思い出し、知らず眉根を寄せて映像を見上げる。
(……王女と黒騎士が襲撃者の件に関わっているのは自明。でも関わっているのが王女か黒騎士か、それとも両者ともかが判らない。私達はそこで行き詰まっていた)
漲る緊張。
本部全体が沈黙。
それは誰もがこの作戦の内容を、そして真の狙いを理解しているが故。
(……マリスタを頼みますよ、風紀委員の皆さん。そして……)
「……覚えているでしょうね。ハイエイトさん……!!」
ナタリーの焦りが臨界に達しようとした、その時。
それらは、突如として姿を現した。




