「PHASE17:向ケサセテ 向ケサセテ 向ケサセテ ...」
「思い上がるな。貴様にどんな権威があろうと、そんな言葉に――」
「あれ。でもそうなるさ、君って……脱出手段を持ってるくせに外に出ようとしていないってことにならない? まるで王女様を僕達に捕まえさせようとしてるみたいだ」
『!』
――トルトとアヤメは、ここでようやくギリートのだべりの目的を理解する。
アヤメが振り返ったときには既に遅い。
ギリートの言葉ははっきりとココウェルに届き――――その瞳は、戸惑いと恐れに揺れ始めていた。
「ココウェル――――王女様!」
「――少なくとも僕らなら、あなたを丁重に保護しますよ王女様。保証します。なんてったって僕らは、あのケイ・アマセくんの味方なんだから」
「…………!」
「王女様!」
更なる揺さぶりを避けようと、とっさに王女へ視線を向ける黒騎士。
かつてない隙だった。
「なるほど。これが狙いだったってワケかい」
「ッ゛ッッ――――!!」
低いうめきと共に吹き飛ぶアヤメ。
我が事のように体をビクリとさせるココウェル。
黒ローブをたなびかせて綺麗に伸びたトルトの左足が、アヤメの胴を蹴り飛ばしたのである。
「今だ。畳み掛けるぞ坊ちゃん!」
「はいはい!」
白と黒が消える。
「っ――王女様ッ!!」
瞬時に体勢を整え、離されたココウェルの下へ戻ろうと地を蹴るアヤメ。
ほぼ音も無く瞬転で飛んだ黒騎士をしかし――――ギリートは同じく瞬転を連用、王女目掛けたアヤメの勢いを真上から襲撃し相殺してみせた。
「貴――」
出かけた悪態を切り、アヤメが背後に瞬転。
直後トルトの足が黒騎士の居た空を蹴り抜く。
二人を相手には王女へ近付けぬ。
悟ったアヤメは目標を切り替え、無防備な背中を晒す黒の教師へと一直線に――
「ほお。よく、」
――刀を、その黒い手袋をした手につかまれる。
「ッ!!!?」
「避けたな。今の」
刀を持った左手は固定されたように動かない。
教師の空いた拳が握り締められ――――放たれるより数瞬速く、刀を放棄しアヤメが飛ぶ。
ほぼ同時に、白の炎閃がアヤメの胴を切り裂く――
「――うーん速い!」
――ようにして、空振った。
またも瞬転で、黒騎士は斬撃を躱したのである。
奥歯を噛み、再度守るべき王女へ突撃する黒騎士。
しかし己とほぼ同速の達人を二人相手にしては進むことままならぬ。
「あらら。少し遠のいちゃった?」
「ッ……!」
「そして得物も失った」
トルトが腕を振る。
アヤメの黒刀が遥か遠方、建造物の高層に深く突き刺さる。
「さあて、嬢ちゃん。これでもまだ負けを認めねえかい?」




