「PHASE15:戦闘開始」
「…………ふーん」
発火。
ギリートが魔装剣イグネアから火炎を迸らせ剣身にまとう。
「ケガはねえのかい、ディノバーツ先生」
「は……はい」
「持ち場に戻っていいですよ、先生。あとは僕らで何とかなるので」
「……分かったわ。皆、魔法陣の守備と一般客の避難に意識を切り替えて。騎士との戦いからは撤退します」
シャノリアが学生を連れ、離れていた持ち場へと戻っていく。
彼女らへ向けておもむろに黒刀を振り上げたアヤメに、ギリートはまっすぐ切っ先を向けた。
「それ以上動くなよ。動くと撃つよ」
「……ココウェル。少し下がっていていただけますか」
「わ――わか、った」
「少しで良いのー? 巻き込まれて死んじゃうかもよ」
「面白いことを。気を付けるべきは貴様等だろうに」
「守らなくていいみたいな言い方だねぇ」
「だから無駄に場を掻き乱すなっつってんだろ」
「そうですねえ…………それじゃ。邪魔者も消え、客席の準備も整ったところで――」
――空気が一変する。
三人を取り巻くように飛行する記録石。
そのわずかな音さえ煩わしいほど研ぎ澄まされる緊張。殺気。
離れたはずのシャノリアでさえ目の覚める魔波。
恐るべきは、それがギリート一人によって作られた圧であること――――
「――――始めようか。黒騎士」
風。
剣尖から小さな火の鳥が奔る。
攻撃圏内に迫った炎弾を即座に打ち落とすアヤメ。
その一動作中に二撃目を構え肉薄するギリート。
剣光。
火花を散らす白黒の剣。
「――!」
白の剣身が熱に光り、爆発。
灼熱は波動のようにアヤメを飲み込み吹き飛ば――
黒は既に真横。
「!」
迫った刺突を右手の剣を逆手に持ち替えて迎撃、脇腹から心臓を貫かんとした一撃を間一髪で逸らす白。
空いた手から放たれた炎の波動を避けた黒が上空へ飛翔、目で追った白が見たのは――
「っ……!」
――既に折り返し次撃を繰り出さんとしていた黒。
ギリートはとっさに振り上げた剣で重い一撃を受け流す。
(……速えェな、こいつはどうも)
静観するトルトは、その速さこそが黒騎士の強みであろうと読む。
ギリートの一挙がアヤメの二挙三挙。
更に急速反転が可能な程練磨された瞬転と瞬転空。
(おまけに攻撃の精度も、一撃一撃が全て急所を狙えるほどピカイチ――――)
「……フカすだけのことはありやがるか。こりゃ『隙』を作んのも一苦労だな」




