「PHASE13:黒騎士 ヲ 足止メ セヨ」
横から念話に割り込んだケイミーが叫ぶ。
シャノリア達転移魔法陣前に詰める者達を映した記録石が、わずか百数メートルの距離から向かってくる黒騎士と、小脇に抱えられた少女を映す。
(瞬転を使ってる――もうここまで来る)
「切るわね」
「くれぐれも出過ぎず」
「うん。――いいわねみんな、手はず通りに!」
「は、はいっ……!」
緊張に声を上ずらせる学生に目を向ける間もなく。
アヤメは、シャノリアの心臓を目掛け突きかかってきた。
(まずは障壁――)
障壁はあっさりと壊れ、
(――――!)
「温いな。お前ら」
黒刀は、あっさりとシャノリアの右胸に突き立った。
「――!」
誰一人、そのシャノリアに気を配っていないことにアヤメが気付いたのはその直後。
「拿捕」
つまり、何もかもが遅すぎる。
シャノリアの身体が溶け落ちながら液状に拡大、漁網のようにアヤメを覆う。
とっさに脱しようとするも、瞬転の勢いさえ殺す水圧に押し戻され――――黒騎士はあっという間に、水で満たされた水泡の中に囚われた。
無論、そこに空気など存在しない。
「や――獲った、」
「水中では剣も振れない――」
経験の浅い義勇兵コースの者達の安堵。
故に彼らは、
「敵は障壁破りを持ってるッ!!」
「! でも――」
「構えなさい! この程度の水牢、相手は破れるかもし――」
騎士が再び剣を構えているのさえ、見えない。
「――水祭の乱波!!」
水飛沫。
水泡が飛んだ斬撃に割かれたのと、シャノリアが放った水の奔流が相殺したのは、次の瞬間だった。
「うわぁっ!?――――あ、」
飛び散った水飛沫に目を閉じた学生達が、その飛沫が形作った大きな手に掴まれ、黒騎士から大きく遠ざけられる。
その中央で――――シャノリアとアヤメは、水棍と黒刀を鍔競り合わせていた。
「……水がくずれてる」
「!」
「『魔破の剣』。ただの障壁破りじゃないのね、その魔装剣に施されている意匠は」
「…………」
アヤメがかすかに目を凝らす。
互いに見つめる両者の眼前では、黒刀との接触部分で魔素へと散り消えていくシャノリアの水棍。
それでもシャノリアの得物が壊れずにいるのは、彼女がそれを予想し、絶えず水を武器に供給しているからに他ならない。
くずれ続ける、そして波打ち続ける所有属性武器を前に――――黒騎士は、はっきりと目を細めてみせた。
「成程。なまくらばかりでもないということか」
「ッ!!」




