「Interlude―103」
「考えられないなー、ってね。なんだか夢でも見せられてるみたい…………プレジアって、そんな場所じゃなかったと思うんだけど」
「…………」
「そんな場所って、どういうことだー?」
「生きている世界が違う人達の集う場所。世界が違えば視線が違う、価値観が違う。そして何より……違う世界の人間同士は解り合えない。絶対に」
「んなことないよせんせー! だってみんな、こーんなかわってんだし!」
「そう見えるだけよ。覚えておきなさいな、おデコちゃん。『人は変わらない』わ」
「…………」
「かわってるじゃんー!!? 見てわかんないの? せんせもしかして頭わるわる? 一たす一は???」
「二。おデコちゃんには変わって見えるだけよ。例えばほら、」
「んぅ」
パーチェが手首に提げたヘアゴムを取り、手際よくパフィラの頭をいじくる。
まもなくパフィラの頭頂部からは、毛先の乱れた筆のような一つ結びが伸びあがっていた。
手鏡を見せられ、パフィラは頬を膨らませてそのヘアゴムを解く。
「ガキやだ!!! やめてよせんせーハズいもう!!!」
「今でも十分ガキじゃない」
「がぶー!!」
「パフィラ、パーチェ先生は先生なのよ」
「その髪型が出来たのは、あなたが今その髪を持っているからよね。あなたが変わったからじゃないわ、パフィラ」
「……おが」
噛み付こうとした口をパーチェの両手で横から挟まれながら、パフィラがうめく。
パーチェは――――リセルは目の前の少女でない、どこか遠くを見つめながら続ける。
「人は変わらない。変わったように見えるとしたらそれは、『変わった』んじゃなくて『出来るのにしてなかった』だけ。人間ってそういうものよ」
「ぶうっ、はなしてっ。そんなの、わたしだけかもしんないよー!?」
「――私も、そうは思いませんけど」
システィーナが口を開く。
リセルは嘲笑うような顔で小さく息を吐いた。
「それはあなた達がまだ若いから。私はここに来る前にも、たくさんの人間を見てきたわ。その上で得た経験よ。学びと思って受け取りなさい」
「私は、さっきの髪型も『変化』だと思います」
神妙な顔で、システィーナは続ける。
「それにパフィラだって、肩くらいまで髪を伸ばせば、もっと別の髪型だって出来るかもしれないし。もっと伸ばせば、もっとたくさんの。そうしてるうちに、ああ短い方も良かったかも、ってまた切っちゃうかもしれません。それって全部『変化』だと、私は思うんですけど」
「そうね。そう思えるなら、それはそれで素敵なことだもの。少なくとも、生に希望を持つことができる」
「……てことは、先生は絶望してるってことですか?」
システィーナとリセルの間に流れた緊張。
それを読み取れた者は、誰一人いなかった。
「……変な質問でしたね。すみません」
「……ちょっとしゃべり過ぎちゃったわね。聞きたいことは聞けたから――」
「いえ、まだ答えてませんよ」
「え?」
近付いたシスティーナが、再び背後からパフィラの両肩に手を置いてはにかむ。
「アマセ君は、この作戦の立案には関わっていません。でも、マリスタがこの作戦の構想を始めたのは、間違いなくアマセ君の影響があったからです。そういう意味では、」
「あわかった!! 関わってると言えなくもない!!」
「ね」
「ねー!」
「…………そうね。ありがとう」
少女たちに背を向けるリセル。
それと同じ頃、圭もその背で、ペトラの言葉を受け取っていた。
「……何故だ。何故俺に話した、そんなことを」




