「Interlude―100」
◆ ◆
「大丈夫だよ、ホラ、見ててね……水神の一呼」
「あっ……なおったーいたくない!! ありがとうおねえちゃん!!」
「はいはーい」
「またおいでー!!!」
「こらパフィラ。救護室に『またおいで』はないでしょ」
「あ、そっか! なは! んでもシスティーナ、ほんと保健室のせんせー似合ってるなー!」
「そう? じゃあ将来はここの医務室の先生にでもなろうかなぁ……なんて話が出来るくらいには、ケガした人来ないね」
第二層、医務室。
けが人のいない室内を見て、システィーナは力無く息を吐いて椅子に背を預けた。
見上げた場所には、魔石によって出力された映像がイベント実施場所の各所を無音でランダムに映し出していた。
「すごいなアルクスのローブ!! コケても痛くないんだろー?」
「着たことないからイマイチわかんないけど、魔弾の砲手って実際英雄の鎧を使った人のパンチ一発分の威力があるんでしょ? それをまったくノーダメージにしちゃうっていうんだからかなりのシロモノよね。ちょっとこけたり落ちたりした程度じゃ全然平気ってことだよね」
「足もヒネらないかな」
「そ、それはどうかなローブ関係無いしな……それにしても、ヒマね。みんな大変なのに、こんなに時間を持て余してていいのかな」
「平時くらい落ち着いてないと戦時に対応なんて出来ないでしょ」
イベント「英戦の魔女と大英雄団」のため、救護室として整えられた医務室内の椅子に座って向かい合う二人の少女に、パーチェ・リコリス――――魔女リセルがため息を吐いて言う。
「パーチェせんせー! 案内お疲れさん!!」
「まあ、そうですよね。あの黒騎士や襲撃者に……誰かが大ケガを負わせられる可能性も、あるわけですもんね」
「そう。医療現場では『必要最低限』なんて言語道断。医務室に詰めたいなら覚えておきなさいな――――そこの兵士長殿も」
ちらり、とパーチェが目を流す。
そこには、今しがた彼女に案内され、医務室内の備蓄品や環境の確認を終えたアルクス兵士長、ペトラ・ボルテールの姿があった。
「無理を言って済まなかった、パーチェ先生。これだけの準備があれば、きっとこの作戦中は治療が追いつかなくなることも無いでしょう」
『…………』
「大丈夫よみんな。本当に彼女は『見るだけ』しかしてなかったから」
救護室に詰める学生たちの不安を取り除くべく、リセルがそう口にする。
ペトラはその目を学生たちの間に行き来させながらため息を吐いた。
「過剰に警戒する必要はない。私はお前達の作戦を妨害するために来た訳ではない」
「それに、アルクスのローブを無断で手配してくれたのはこのペトラちゃんよ、皆も知らされてるでしょ」
「『ちゃん』やめてください」
「え?」
「『ちゃん』やめてください」
「……学生の頃はここに入り浸ってて可愛いかったのに」
「そういうのもやめてください」




