「PHASE10:セメテ 理想 ヲ 声高 ニ」
ガイツがギリートを一瞥する。
呑気に手をひらひらとさせてみせたギリートの腰には、確かに玩具でない真剣、「イグネア」と呼ばれた魔装剣が提げられていた。
「……確かに、その男ならば役目を果たすだろう」
「信頼していただけて光栄です。――それで? 皆さんはここへ、何をしに来られたんでしたっけ」
苦虫を噛み潰したような顔でギリートを、そしてガイツを見るアルクスら。
ガイツはその視線をあくまで受け止め、その目でリアを見た。
「…………。変わらないではないか」
「え?」
「お前達が我々に情報を寄こさなかったのは、『敵との全面対決の果てに捕縛する』という荒事を選択していたからだ。それが国内の動揺と緊張を招き、新たな内乱や外国への隙を見せてしまうことになると。だから反対なのだと」
「はい」
「だがこの作戦は――――お前達は結局、奴らを武力で取り押さえようとしている。では最初から、我々に従って大人しくしていることも出来たのではないか? 自分たちが、徒にプレジア内部の混乱を招いたとは思わないか?」
「いいえ、思いません。確かに戦術的には同じです、でも――――私達は、誰も傷付けるつもりはない」
「それは我々も同じことだ、当たり前だろう。プレジアに関係するすべての者達を守るためにこそ、迅速な決着のため――」
「違います」
「――違うだと?」
「はい。私達は――――王女も。敵も同様に守りたいんです」
「――――何、」
「何だと!?」「馬鹿も休み休み――」
「あなた達アルクスはプレジアの人々を守るため、王女を含めた相手側を撃破しようとしていたと聞いてます。そしてその後、王女を材料に国へ自分たちの立場を認めさせようとしていると。あなた達の勘定には、彼らが守るべき対象に入っていない」
「――――か弱い王女を守るべきだと。切り捨てられる可能性が容易に考えられる彼ら襲撃者を守るべきだと。そう言う訳か」
「……はい。襲撃された学生達への責任は私が負います」
「もちろん、僕も委員長と一緒に――」
「理想論だ。すべてを守るなど――」
「それがアルクスの『信条』ですよね。すべてを救うなんておこがましいし、出来ないことだと。そんなものに身を削り心をすり減らすよりも、今自分の力だけで救えるものを救うべきだと」
「そうだ。実際、無傷で襲撃者を救うことなど――」
「でもそれは間違っている」
ガイツの言葉を、リアは心を寄せるそぶりも無く切り捨てた。




