「PHASE7:新タナ 風ヲ 吹キ込メ」
「予定通り、呼んできましたよ先生、生徒会長。風紀委員長を」
「ご苦労様。手はず通りだね、セイカードさん」
「風紀……委員長だと?」
「はい。正真正銘、学長にも承認いただいた新しい風紀委員長ですよ。ま、今日決まって今日動き出した新米も新米の風紀委員長なので、実績はあまりないですがね」
「…………」
ガイツは何も言わない。
呆然としている訳ではない。
ただ言葉が出ないのだ。
何故なら目の前に現れた新しい風紀委員長に――――ガイツは、全く見覚えなど無かったからである。
ナイセスト・ティアルバーに限らず、風紀委員長にはこれまで一つの例外も無く、名のある貴族が就任していた。
リシディアの貴族、その有名どころを一つ残らず記憶しているガイツは、今度は誰がその腐り切った椅子に腰を落ち着けたのだろうと新・委員長を値踏みしようとしたのである。
結果、その目論見は失敗に終わっていた。
(……どこの貴族だ、こいつは?)
ガイツの目の前にいる少女は平凡で、貴族らしい風格や居丈高なたたずまいなど、何一つ備えていないように見える。
「……解ります。どこの馬の骨だ、と思っていらっしゃるんですよね、兵士長は。その見当は間違いではないです――――私は貴族ではありません」
「!――……」
ガイツは一瞬目を見開き、やがて目だけを動かしながら、呆れ顔で少女とギリートを見た。
ギリートが片眉をひそめてニヤリと笑う。
「残念。その場しのぎのお飾り委員長じゃないんですよね、これが。話が性急すぎる感は否定しませんけど、まだ内示の段階なので勘弁してくださいな」
「苦しい言い訳はよせ。誰が信じるというんだ、このタイミングで決まった貴族でない風紀委員長など。『我々を止める為だけに、このイベントの為だけに急場で用意されたお飾り』。これ以上にしっくりくる説明は無い」
「うーん。今回の作戦に必要だった、ってのもまあ否定はしませんけどね」
「それで? 聞かせてもらおうじゃないか。一体貴様は誰なんだ、女学生」
「…………プレジア魔法魔術学校、中等部第六学年二組」
眉の高さで揺れる艶やかな黒の前髪の下で、強い意志を湛える切れ長の目を光らせながら。
「リア・テイルハート。プレジア風紀委員会、新委員長です」
風紀委員長は生徒会長と共に、アルクス兵士長の前に並び立った。




