「PHASE6:兵団 ノ 圧制 ヲ 止メヨ」
学祭実行委員のケイミーが突き飛ばされるようにして押し退けられる。
現れたのは、口を真一文字に引き締めたガイツ・バルトビアだった。
アドリーはどよめく学生達の前に出、藍色のローブをまとった巨躯の男の前に出る。
「大丈夫ですか、セイカードさん」
「は、はい。あの、先生」
「ええ。予定通りお願いします」
「どういうことだ」
「さてと、兵士長さん。それはこちらの台詞ですよ。学生に乱暴を働きながら押し入ってきたりして、何の冗談です」
「あの『王女』とやらがケイ・アマセの『隠し事』なのか? あれは本当にリシディアの王族、ココウェル・ミファ・リシディアなのか」
「答える義務も義理も無いように思います、またハッキリとした答えは知りません。よってお答えしかねます」
「俺は学長からこの件を任されている!!」
「私達も学長からの許可の下イベントを行っているのです。あなた方にも通達は行っているはずです」
「王女の存在など聞いていない!!」
「何を仰っているのやら。お渡しした企画案に書いてあったでしょう、『お姫様を安全な場所まで導いたらゲーム終了』だと」
「詭弁も大概にしろ貴様ら!」「こんなだまし討ちのようなやり方を学長が認めると思っているのか!」「すぐに報告してやるぞ!」
ガイツの傍を固めるアルクスの隊員が口々に怒鳴る。
両耳を塞ぎながら、冷たく彼らを睨み付けるナタリー。
「あなた方が『騙し討ち』とか言います? 自分のことは棚に上げてよくも――」
「コーミレイさん、収めなさい。諍いは無用です」
「いいだろう。我々は我々の仕事をするまでだ、マーズホーン教諭。イベントは中止だ。お前達はボルテール兵士長と共に王女の拘束を――――」
「おっとっと。んなこた許しませんよ、兵士長殿♪」
背後からの声に、ガイツは振り返りもしなかった。
「――音も無く背後をとるか。よもや、本当に我々アルクスと事を構えるつもりでは無かろうな、イグニトリオ」
「残念でした。僕は今イグニトリオでなく、生徒会長ですよ」
「相変わらず仕事が早いですね、イグニトリオ君」
「なんの、呼び出しあるまでヒマしてたんで。もう一人も間もなく来るかと。指示出しも終わる頃ですから」
「もう一人だと?」
「ええ。必要なんですよ。あんた方アルクスを止める為に」
「――驕りが過ぎるぞ。ひかえろ学生風情が」
「ホラ見えた。それが結局」
「学生風情がッッ!!」
「限界なんじゃないかって思うんですよね僕。あんたの、いいや? 傭兵サマ風情のね」
「だったとしても貴様等学生風情よりマシだ。遥かにな」
「どこがです? 組織の利益に目がくらみ、学生を闇討ち煙に巻き!……あんたが帰ってしたことの、どこが遥かにマシなので? ぜひお聞かせ願いたいですね」
「そこまで言うなら聞かせてやろう、もう一度な。信用できんのだ貴様らは。万年休学のお飾り生徒会長が、この事件を興味本位で引っ掻き回し、ケツも拭けない差別と偏見の吹き溜まり共をさも英雄になれるかのように焚き付けて一体何が出来るというのだ!!」
「だからそれはおたくも同じでしょうよ」
「違うな。少なくとも我々は責任をとれる」
「………………。確かにそうですね」
「見えるようだぞ。事態が悪化し手が付けられなくなった時、尻尾を巻いてこの座興から手を引く貴様等大貴族共の姿がな! 子の世代とて忘れたとは言わせんぞ、貴様等があの内乱の折見せた考え得る限り醜悪な幕引――」
「だからもう一人なんです。バルトビア兵士長」
凛と通る声。
それは、ギリートのものでは無かった。




