「果てにあなたが 消えるとしたら」
……保険はいくつか考えている。
だが、どのやり方も一人じゃ無理だ。
圧倒的に――
死ね死ね死
「だまれ、くそっ……!」
――俺が弱い。その上呪い。
どんなに足掻こうとも、俺と「もう一人」がアヤメに対することになるのは避けられない。
力不足に泣きたくなくて、我武者羅に努力を重ねてきた。
しかし直面する壁はいつも遥か高く聳え立ち、正面突破など夢のまた夢。
結果いつも薄氷を踏むような思いで奇策を用い、綱渡りばかりする羽目になる。
強ければ。
ただ強くさえあれば、俺は――――こんな下らない回り道をせず、堂々と正道を行くことが出来るのに。
悔やんでいても仕方無いとは解っていても、今回ばかりは止められそうも無かった。
俺の非力の代償を、俺一人が払うならいい。
だが今回は――
〝貴方は黒騎士に勝てますか?〟
〝騎士に。わたしのものになりなさい〟
……お前は一体何の権利があって、誰に代償を支払わせようとしている? ケイ・アマセ。
〝悲しまないで、忘れないことにした。――――たくさんの犠牲の先に、今現実は、私達の未来はあるんだってこと〟
タタリタの言葉が頭を過る。
ふざけるな。
そんなことが出来るのは一部の英雄だけだ。
俺には、俺が意図せぬ人の痛みまで背負って進むことなんて出来ない。
〝だってアマセ君は、――――プレジアを救った、英雄なんだから〟
俺は英雄じゃない。
自分一人の思いだけしか背負えない、ちっぽけな復讐者なんだ。
それしか望んではいないんだぞ。
〝ナイセスト・ティアルバーを倒してくれッ……!!!!〟
言った筈だ。背負うのは一度だけだと。
何故だ、神よ。
なぜお前は、俺にあんなに重いものを、求めてもいないものを幾度となく、
〝リリスティア・キスキルっていいます。よろしくね〟
――幾度となく、背負い込ませようとするんだ。
俺が一人で歩める道を、事ある毎に阻もうとするんだ。
まるでこの異世界そのものが、俺の存在を否定する意志を持つかのように。
「…………強くなりたい。強くなりさえすれば俺は、こんな…………!!」
◆ ◆
――金髪が、うずくまったまま壁に身を預けて途方に暮れたとき。
銀髪もまた、出入口のドア枠に背を預けて息を吐き、己の非力を見つめていた。
〝いつからそんな風になっちゃったのよ〟
「……『いつから』って。ずっとそうだったに決まってるじゃない、エリダ」
〝あたしだってもう……魔法使いのはしくれだから〟
「はしくれに過ぎないあんた達が、次の瞬間には命を失くしてるんじゃないかって……いつも不安で不安でしかたない。大切なものを一手に引き受けて戦える力が無い自分を、ずっと責めてるの。『誰かの何か』のために戦う人は、きっとみんなそう――」
吐かれた息が、弱々しく中空に消える。
「自分のせいで誰かを失うことに、とっても臆病なんだよ」




