「現実主義者の苦悩」
「…そんなことはない、今の所意見が無いだけだ。今アルクスの信条について話していても始まらないだろう。他に対案が無いのであればガイツに従うだけだ、何も思いつかない私は。もう時間は無いんだぞ」
「っ……!」
――言葉に詰まって座り込むイフィ・ハイマーを、アルクス兵士長ペトラ・ボルテールは複雑な面持ちで見た。
〝確かに私達は悪かったッ!!――――でももう今は変わったんです!! いいえ、変わろうと頑張ってるッ!! 苦しみながら今までの自分と戦いながら変わろうとしてるんですッ!!〟
〝……マリスタ達を頼む。俺が眼鏡に適っていたなら〟
〝貴方は黒騎士に勝てますか?〟
〝やれんこともない。俺にしか出来んやり方でな〟
――見ながらも、ずっと少年たちの会話が頭に残っている。
ガイツが、そしてその他のアルクスが考える以上に、ペトラは、圭ら一部の生徒達に注目していた。
〝がんばれアマセェッッ!!!!――ティアルバーさんを……プレジアを変えろッッ!!!〟
実技試験のとき、ペトラがその目に焼き付けた団結。
あの熱が、彼らの中で今も燃え盛っているとしたら。
彼らが、本当に信頼で団結しているのだとしたら――
〝ほほう。痛覚も生きている個体は初めてだな〟
〝やめてやめてやめてええええぇぇッッッ!!! おかあさんをいじめないでぇっ!!〟
(――馬鹿げてる。私達はそれに裏切られてきたからこそ、今プレジアにいるのに)
軍議はガイツの策を採用する方向で決着し、ペトラは持ち場である第四層アルクス詰め所――――圭の拘束されている部屋の前室へと戻る。
彼女が無理を言って圭の部屋の看守を買って出たのも、ひとえにアルクスの誰よりも彼を警戒していたからだ。
注意深く、油断なく見張り、言動に注視し、一挙手一投足に注目し――――そして今もなお、ペトラは何の尻尾も掴むことが出来ずにいる。
確信を得たかった。彼はクロであると。
否定したかった。何の担保も無い信頼関係などまやかしだと。
〝精神は崩壊しているようだが、あと数か月は生きるだろう。検体として回収してくれ〟
〝このうるさいガキどもも回収対象か?〟
〝いや、その遺児達は違う。しかるべき隊が回収するだろう、離してやれ。うっかり殺しては後が面倒だよ〟
〝許さない……許さない許さないッッ!! おぼえてろおぼえてろッ、おぼえてろ貴様らァァァッッッ!!!!〟
証明したかった。
利害の一致が無ければ、人は人の為に動いたりはしないと。
「ペトラ」
「っ…どうした、ゼイン」
「……ホントに大丈夫かい?」
「大丈夫だと言ったろう。何度も言わせるな。何か用事か?」
「用事があるのは別の人。……妹さんが来てるよ」
「!」




