「『魔術』」
そういえば、この世界の人間はちゃんと「魔法」と「魔術」を区別して使っていた。
俺の世界で言えば、似たような意味で使われることが多いんだが。
「魔法と魔術は違うのか?」
「そりゃもう。全然違うよ。分け方は簡単。自然界にもともと存在したのが魔法。んで、人間が作った魔法が魔術」
魔法については、先に本で読んで知っていた。
魔法とは、自然界に存在する精霊――先の授業でアドリー・マーズホーンが語っていた、肉体を持たない魔力の塊のようなものだ――が岩や木に書き遺した刻授印と呼ばれる彼らの言語を人間なりに解釈し、人間の言葉に直すことで、初めて使用出来るものなのだそうだ。魔法は本来、人間のものではなかったのである。
そうして刻授印を人が読めるようにしたものが呪文となり、呪文によって魔法の属性や規模、発動座標が決まる。
所謂魔力の消費はその過程と結果の際に起こる、というわけだ。
火球を唱えた時、そして実際に火の球を発生させた時。その二つで魔力消費が起こるわけである。
それが魔法というシステム。
となれば、「人が作った魔法」だという魔術とは――――
「ちょっと、聞いてんの!?」
「――ああ。聞いている」
「あやしいなぁ……まぁざっくりまとめると、その魔法を作ってる言葉をアレコレとオリジナルに組み合わせたものが魔術になるってこと。そんでこの通訳魔法と翻訳魔法――〝壁の崩壊〟と〝虹の眼鏡〟はその魔術の中でも、魔法学校の人じゃなくても覚えてるすっごく有名で簡単な魔術なワケ」
「やはり魔術は魔法より難しいのか」
「使うのは別に難しくないよ。でも、魔術を作るのは普通の人じゃ絶対無理だと思う。魔法の数はまとめるのがムリって言われるほど多いし、今でも学者が世界各地で新しい魔法をどんどん見つけてるって話だよ、たしか」
「それだけ呪文の組み合わせも複雑で膨大、ということか……しかし、ならどうして翻訳と通訳は簡単なんだ」
「あんま知らないけど。開発した人が、普通の人も使えるように作ったんじゃない? だから世界中でバカ売れしてるってさ、お金持ちだよー」
……なるほど。
魔術というのはつまり、俺の世界の売り物よろしく開発するものなんだな。
木材が魔法なら、木造の家が魔術というわけだ。
「じゃ、早速行くよ。まずは〝壁の崩壊〟からね。呪文は〝取り払え〟。これだけ」
「やはり短いな。魔弾の砲手より短いじゃないか」
「だから言ったじゃん、簡単だって」
「……言葉の組み合わせで発動行程を作る魔法を、こうも短い言葉に省略することが出来るのか」




