「故にジゴロ」
「そっ、それで? どうして私なんかをその……部屋へ、呼んだわけっ?」
「ああ、そういえば話してなかったか。悪かった。折り入って頼みがあるんだ」
どこにでもあるカップをテーブルに一つ置き、テーブルを挟んでマリスタと対する。
目が合うと、隙だらけの赤毛はいよいよ表情を硬くし、肩に力が入った。
だからお前はなんでそう緊張してるんだ。
「……たっ、頼み?」
「ああ。シャノリアにも言ってみたんだが、断られた」
「え………………シャノリア先生にも?!?! 節操ナシ!!!」
「何の話をしてるんだ。俺は魔法の話をしてるんだが」
「大体千年早いのよ、私やシャノリアせんせがそう安く手に入ると思ったら――――――まほう???」
「そう、魔法だ。マリスタ、俺に通訳魔法と翻訳魔法を教えて欲しい」
「――――つうやく、まほう???」
「そうだ」
「………………うそでしょ。じゃ私こんなカッコで来る必要なかったじゃない」
「………………なぜそんな格好で来る必要があると思ったんだ?」
やかんが沸いたぞと鳴いた。
マリスタも何故か泣いた。
◆ ◆
「ほんっともう、何なのさアンタは! 宇宙人か!! もてあそびやがって!! 刺されるからね絶対!! むしろ刺す! 私がさす!! それはもうぶすぶすと!!!」
「宇宙人って……お前、本当に何と勘違いしてたんだ? 戦いにでも来たのか俺と」
「えーえぇ、そのつもりでしたともよ!! 一世一代の戦いになるさと覚悟してこその準備だったんですよーぉごめんなさいねぇ!」
キレてるな。どこかキレてはいけない回路が。
「ていうかあんたもねぇ、魔法教えて欲しいなら魔法教えてって先に言いなさいよ先に! そうやって思わせぶりなことしなきゃ私もねぇ!」
「思わせ……?」
「なんでもないです!!!!!!!! にくたらしい!!!!!」
疲れる。
マリスタって女はどうしてこう不可思議な言動と行動で俺を振り回すのか。
「でも、確かに先に要件を言えってのは一理も二理もあるな。悪かった」
「ハァ……まあいいけどさ。ていうか、なんで私なのよ。もっと頭良さそうな人いっぱいいるじゃん。パールゥとかシスティーナとかシャノリア先生とか女の子ばっかじゃんかバカ!!!」
「シャノリアには断られたと言ったろう。気軽に魔法を教えてくれと頼むほど、クラスメイトとも親しくない」
要するにお前なら良心が痛まない。
「え。それで……私に?」
「一応、俺の出自を知ってる数少ない一人だからな。クラスの中で気安いのはお前だけだ」
「やっぱり安いのか……ハァ」
「誉め言葉だぞ……」
「まあいいや、はぁ。それじゃあ、さっさと始めましょ。あーでも、私知っての通りアホだからね」
「自分で言うなよ。ホントになるぞ」
「教えるの上手くないから、期待しないこと」
「してない」
「それが教えてもらう人の態度?!?」
「五月蠅いな。自分で言ったんだろうが」
「う。うー……あ、でも通訳と翻訳ならそう難しくはないかな。あれ、すっごく簡単な『魔術』だし」
「…………『魔術』?」




