「俺の知らない少女の姿」
「そ、そうよねっ。できればもう二、三日前に声をかけてもらいたかったわ」
そっぽを向きながらマリスタ。その顔はなんだか落ち着きがなく、余裕を欠いている。これは案外、俺の予想は当たっているのかもしれない。
部屋に案内し――といっても、こいつが俺の部屋にいた時から、大した変化はないんだが――、簡素なテーブルセットに座るよう言う。マリスタはいやに慎ましい動作でスススと椅子へと座った。その癖落ち着きは無く、掴んだ服の裾を指先で弄び続けている。
疲れてるのか?
もしくは実は学校で見せている顔はやはり学校用で、家ではこんな感じに大人しいのかもしれない。
……それは、ないか。
ないだろうか。
「悪い。普段頓着しないから、売店で買った安茶しかないんだが。飲むか?」
「え、ええ。お願い――――あんまり変わってないんだね、中」
「そう変わるものでもないし、一週間前にきたばかりじゃないか……そんなことより、学校とは随分様子が違って見えるぞ。体調が悪いんじゃないか?」
「そっ、そんなことはないです! けど!…………ふんいき、違って見える?」
「ああ。最初見た時、別人かと思ったぞ」
「……ど。どんな風に見えた?」
「え……どんな風、って、だから、」
おず、と上目遣いでマリスタ。
その仕種が妙にこう――庇護欲を刺激してきたものだから良くない。
俺は思い切り口籠ってしまった。
〝今度はちゃんと――――して欲しいか?〟
こんな時まで出てくるな、悪女めが。
……なんて思考も、そういえば読まれているのだろうか。あの魔女には。
それにしてもマリスタのこの変わりようは、本当にどうしたことなんだ。
まさか替え玉じゃなかろうな。パールゥとか。システィーナの罠、とか。
「…………」
「っ、っ??!」
目を細めて、少し、目の前のマリスタらしき人物をじっと眺めてみる。しかしその滑らかな赤髪は紛れもなく、マリスタ・アルテアスその人で間違いない。
どうやら替え玉では在り得ないようだ。
「なっ――――ちょ、ちょっとそれは急すぎなのではないかなーと思――」
「急? 悪い、なんでもないんだ。茶を淹れる、少し待ってくれ」
言って炊事スペースへと動き、新古然としたシンクの水道からやかんへ水を注ぎ、コンロにかけてスイッチを押す。するとコンロの魔法機構が発動し、備え付けられた魔石が炎を適量噴き出す。
もう何度も繰り返した問答だが、この世界にガスはないのだろうか。発見したら世紀の発見として取り上げられるのだろうか……というか、魔法というのなら、お湯をいきなり出したり出来そうなものだが。今度、シャワーの機構を調べてみてもいいかもしれない。
……風呂……。




