「Interlude―6 少女、出陣」
入ったが最後、私はきっとこれまでの私ではいられない。そんな確信がある。ええ、ありますとも。
とりあえず、身だしなみは整えてきた。着古してるローブも脱いできたし、きっと今私からは、想像もつかないような抜群のいい香りがするはずだ。きっと食べてもおいしい。
じ ゃ な く て 。
ばかか。ばかなのか私。ばかかもしれない。
ばかかもしれなくても、その発想はあまりにもはしたない。
誰とも気安くいたいけど、安い女ではいたくない。
とにかく、クールに。おしとやかに。いつも通りの私でいるのだ。
主導権を握られてはいけない。四大貴族の名に恥じぬ対応で、ケイの煩悩をコントロールしてやらねば――!
すぅ、はぁ。と、深呼吸をする。
息を吸い込むと、気持ちがつぶれて無心でいられる。
誘われた時のような醜態は見せないわ。
見てなさいよ、ケイ。
あんたがこれまでどこでどれだけの女性を相手にしてきたか知らないけどね。
あんたの思い通りにはいかない女なんだから、私は――!
◆ ◆
トントン、と控え目に過ぎるノックが聞こえる。
読んでいた本を閉じ、俺はドアを開けた。
――一瞬、まだここに不慣れな女子が寮棟を間違えたのかと思った。
その女性は控えめに光沢を放つ、温かそうなベロア素材のボタン付きワンピースを着ていた。
結われた髪は肩で柔らかく弾み、胸元へと落ちて揺れている。小さな肩が緩やかなシルエットを描き、急いでいたのか、涼しい印象を受けるUネックの襟ぐりは左右がずれていて、右肩が少し見えてしまっている。両手は下げた位置で服を握り締めており、緊張が透けて見える。
要するに、目の前の少女は――――ひどく、隙だらけな格好をしていた。
というか、この赤毛の赤服女は。
「……どんな格好なんだ、それ。マリスタ」
「べ、別にっ? 放課後なんだから、私服にくらい着替えるしっ?」
「私服……」
私服というより、パジャマな印象を受けるんだがな……
まあ、でも。
チラ、と壁の時計を見る。気が付けば、随分長い間本を読み耽っていたらしい。日はすっかり落ちる時間となっていた。もう少し早くてもよかったのに。
〝――ちょ、ちょっち準備がありまぬるのでっ!!〟
……いや。それはあまりに勝手な話だな。
俺にも生活のリズムがある通り、マリスタにもそれなりに「いつもの生活」があるだろう。それを考慮せずにその感想は浅薄というやつだ。
どれだけ断っても昼飯に誘いに来るお人好しな彼女のことだ。もしかすると、多忙の合間を縫ってここまで来てくれたのかもしれない。
だとしたら、今こいつの行為を無下にするのは得策ではないだろう。
「……とにかく入ってくれ。悪いな、こんな時間なのに来てもらって」




