「Interlude―5.5 少女、思考」
悲鳴にも近いマリスタの声。
喉元までこみ上げた「やっぱりいい」という言葉をすんでのところで飲み込んで苦笑いする。今なんて言ったお前は。そしてどうしてパールゥ達まで顔を強張らせてるんだ。
「……だ、ダメかな?」
「い、いいぃいいえっ!! い、行きますけれども!!」
「……アマセ君って、なんだかんだでマリスタと仲いいよね」
「?……た、頼りにしてはいるよ」
「わ、わわわわかり申した!! ちょ、ちょっち準備がありまぬるのでっ!! 小生放課後しばらく、おおおお時間いただいてもよろしゅうございますかぁっ!!」
顔を苦しそうに赤青とさせて、精一杯といった様子でそう告げるマリスタ。
その力強い返事は有り難いが、準備って。これから死地にでも赴こうってのかお前は。
そして通訳魔法よ。お前もどんな言葉に訳してるんだこいつの混乱を。
一層この魔法の構造が知りたくなった。
「べ、別にそんな構えることでもないだろ……?」
「アマセ君。それはあまりにも解ってない発言だわ」
「え」
システィーナが訳知り顔で首を振り、俺に向けて人差し指を立てる。
「ど、どういうことかな」
「その答えは自分で探して。ともかくも、ここは何も言わず了承しておくものなのじゃないかと、私はそう思うわ」
「そ、そうか……それじゃあ、分かったよ。待ってる」
「ま……まってて!!!」
「ま、マリスタ。……その。がんば!」
「っ、る!!!」
パールゥと意味不明な遣り取りを交わして、混乱赤毛は足早に駆けだす。
……何をどう頑張るつもりで、その動きなんだ。
◆ ◆
あいつは一体、何を企んでいやがりますか。
いやね。確かにあいつも私も多感な十七歳ですよ。色んなことに興味を持つお年頃なわけなのは重々承知なのですよ。
とはいえ、ですよ?
とはいえ……なにも友達とかその他大勢とかいる場所で、私にアプローチかけなくってもよくないですか、って話なのよ。
どうすんのさ明日から。私はイケメンに部屋に連れ込まれた罪深き乙女の仲間入りじゃないのさ。へへへ。
じゃなくて。
冷静にどうするんだ、マリスタ・アルテアスよ。
私は今、ケイの部屋の前に立っている。そもそも、男子寮の中に女子が居ること自体が目立つのだからさっさと入ってしまいたいんだけど。人には心の準備というものがある。そして、私の心の準備はいつまで待っても整いそうになかった。
薄い扉一枚。この向こうに、ケイの住まいが広がっている。
そりゃあ一度は入ったこともあるし、後で考えてみるとイケメンのベッドに寝転がったじゃん私ぎゃーとなったりもしたんだけど。
もうあれから一週間くらい経った。きっと中は、すっかり男子の部屋に――つまり、私にとっては踏み侵してはいけない一線になってしまっているに違いないのだ。




