「Interlude―5」
システィーナが手に紙ナプキンを取り、マリスタの頬についたケチャップを拭う。システィーナの母性溢れる容姿も相まって、その様は子の涎を拭う母のよう。
どちらが母親かといわれれば、十中八九システィーナという有様である。
「さてと。システィーナは今日、何かケイの話聞いた?」
「ううん……聞くには聞いたけど、ホントかどうかは分からないのばっかりだったなぁ。アマセ君がベージュローブのオーダーガード君に圧勝したとか、見たこともない魔法を使ったとか、あやうく殺し合いに発展するところだったとか。それをティアルバー君が仲裁しただとか」
「へ、へぇ……ホントにウソっぽい話ね。ティアルバー君が誰かを助けるとか仲裁するとか、聞いたことない気がするんですけど」
「でしょ?」
「ていうか、私が気になるのは……ケイが、見たこともない魔法を使ったって?」
「うーん……そうなの。それでなくても、アマセ君の情報って実は出身からして伏せられてるしね。もしかすると、何か特別な魔法を取り巻く一族だったりして。なんてね」
(特別な魔法を取り巻く、一族……)
なかなかに的を射ているかもしれない、とマリスタは思う。
いかに保護者面をしていようと、圭はマリスタにとって、急に空に現れ降ってきた謎の少年に過ぎないのだ。
しかも、記憶喪失という割に……マリスタには、ケイ・アマセが何かしら「目的」を持って動いているように思えてならない。
(そうよ。じゃなきゃ、誰があんなに勉強に一生懸命になるもんですか)
「どうしたのマリスタ。もしかして、ホントにそうなの?」
「え? い、いやぁ? そうでもないと思うよ?」
(ウソ苦手よね、この子……)
「んでも確かに、何か目的はありそうだなぁって思う、かなぁ?」
「訊かないでよ……目的って、例えば?」
「例えば、うーーーん……あっ。飛び級? 最年少で王都にあるグウェルエギア大学府に行って、名のある学者になりたいとか」
「うーん……学者になりたい人が義勇兵コースに入るかしら?」
「た、たしかに……んじゃあ、こんなのはどう? 人に語れない過去を持っていて、それを忘れる為にケイは義勇兵コースに入ったの。だがしかし、運命はケイに容赦しない!! 過去を捨てた男に最初に下された任務は、なんと決別したはずの家族との対決だった!! ケイの明日はどっちだ!!」
「………………」
「ああぁっ、だからその目やめてってぇ!」
「まあでも、アマセ君が義勇兵コースに入った理由はホントに謎だよね。魔法も知らないのに。風紀委員の男子達とケンカになったの、それが原因らしいし」
「ていうかそもそも、ケンカにならなくない?? だって相手は義勇兵コースのベージュローブ様ですよ。瞬殺されちゃうよ」
「しゅんコロね……でも、実際オーダーガード君と互角に戦ってるんでしょ?」
「ん、圧勝って話じゃなかったっけ?」
「…………わからないね」
「わからんねぇ…………あーもー! なんでごはんより図書館なのかなケイの奴はー!」
『今、俺のこと呼んだ?』
「今あのぶあいそナルシストの愚痴言ってんの!! 取り込み中だから話しかけないで――――」




