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「疲れた心に、ひとときの安息を」



 ……嘘の吐けない男だ。

 あまりべんの立つ方ではないのだろう。



「何か隠し玉があるんじゃないのか。こんな分の悪い賭けに出られるほどに、決定的な何かが」

「行くぞ」



 ガイツは答えず、他のアルクスと共に部屋を出ていく。

 俺が部屋の構造に意識を向けかかったとき、不意に彼の声が聞こえた。



「俺達は、このプレジアを守ろうとしている。お前はどうなんだ、アマセ」

「……そうは見えないな」

「…………」



 扉が閉じ、鍵のかかる音。

 ふらつくように壁に寄りかかり、強張った体から空気を抜くようにして溜息ためいきいた。



「……俺が、プレジアを守るかって?」



 ……冗談じゃない。



 俺は今、俺の現状を把握しようとするだけで精一杯だというのに。




◆    ◆




「…………ぅうェ」



 ……「胃が痛い」って、精神的なモンじゃないのね。

 物理的に痛むモノなのね。



 お腹が空きすぎて、胃酸いさんが胃袋を焼いているときによく感じる感じの痛みが、どんよりと私の胃腸を攻撃している。



 まったく、なんだってこんな大変な時に――――あの人(・・・)は、まだ出勤さえしてやがらないのか。



 胃をおなかの上からさすりながら、目の前にそびえ立つ大きな大きな門を見上げる。



 学校から一番近い街の一番外側、山あいに建つ小さなお城じみた建物。

 おキレイな模様もように作られた鉄柵てっさくの扉の向こうには、ひろびろ~とした緑の芝生しばふとこれまたこんこん~とわき出る大きな噴水ふんすいがある。

 ゴゴワー! と家を囲むこれまたキレーなレンガ造りのへいの近くには、ねえなんでそんな無駄なの胸焼けするんですけど、って感じの物々しい騎士の像が等間隔とうかんかくで並んでいて、庭の荘厳そうごんな印象をググッと強くしている。げろ。



 周囲の、ちょっとウッソウとした森の風景の中に突然現れる、そんな場違いに過ぎる……うん、誰が見ても、豪邸ごうてい



 これが不肖ふしょうマリスタ・アルテアスの生家せいか、ワタクシの実家にございます。



(……あしすすまねー)



 どーんとわたしの侵入をこばんでいる――いいえ、この家が私に侵入してくるのを拒んでくれている鉄格子てつごうしの門が、今の私の心をそのまま表してくれるよう。

 年末くらい帰って来いと言われて以来、実に実に久しぶりの帰還である。



 なんでこのクソ忙しいときに、わたしゃこんなとこに帰ってこにゃなりませんのよ。



「……………………………………………………」



 ……まばたきしたら消えてくれないかなー、これ。

 家も事件もアルクスもパールゥとのやんややんやも何もなくなって、のんびり目が覚めて伸びでもしながらナタリーに髪してもらって、んでケイとかと楽しく過ごすの。

 えへ、たのしい。



「………………………………、はぁ」



 はぁ。二回ため息もつきたくなる。

 そんな日常に戻れるまでに、私は一体どれだけのことを成し遂げなきゃならないのか。

 マジどえらく遠のいたよ、私の心の平穏。せめてなんか、こう、ひとときくらい――



「――お嬢様じょうさま?」

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