「疑心の根拠」
「ですから、あなた達アルクスがこれを好機とすることはよく分かります。ですが性急に過ぎる。どう転がっても国内情勢を不安にさせ、ひいては他国へ隙を見せることになる――――違いますか?」
「…………さすが、と言うべきか。我々の状況をよく俯瞰しているな、容疑者アドリー・マーズホーン」
「……容疑者?」
アドリーを見る。その顔は平時と変わらず薄い笑みを浮かべたままだ。
彼が容疑者?
今回の襲撃者事件の?
「……ふう。誰でも彼でも疑うのはよくないですよ。そうしたい気持ちも解りますが」
「同情するフリは止せ。知らないと思うのか、お前とクリクター・オースの関係を」
「いいえ。なにも隠しているわけではないですからね、学長との友人関係は」
「……先生。あんた、昔馴染か何かなのか。学長と?」
「ええ。学長とは――」
「昔馴染程度であるものか。アドリー・マーズホーンとクリクター・オースは共にプレジアを創設した同志なんだよ」
「――創設者?」
「それだけではありませんよ。学長とは青年期より、共に学び競い合い、この国の行く末を語り合った仲です。それを理由に私を容疑者だと?」
「事が事だ。疑わしきを放っておけない」
「私のもとにはアルクスの一人も来なかったのに?……その場しのぎの弁明は見苦しいですよ、ガイツ君。師としてそんなことを教えたつもりはありませんが」
「昔のことだ、いつまでも先生面をするな」
「そうですね。昔は昔、今は今ですね。ではアマセ君を解放してくれますね?」
「それは俺が決めることではない」
「……恐らく拘束は君の判断だったでしょうに、落ちたものですね。残念です。では君たちの総司令の判断を待つとしましょう。ですが気を付けて――――また私達の生徒に過ぎた拷問を加えようとすれば、その時はリシディアでなく、このプレジアがあなた達を許しません。形も残らぬほど潰し尽くしますので、どうかその覚悟でいてくださいね」
「………………」
――初めて、小さく怒りの色を見せたガイツから目を離し、アドリーは去っていった。
しまったドアを見つめながら、俺など見もせずにガイツが口を開く。
「感謝するんだな。気骨のある者が、教師連中の中にも居たことに」
「……『戦うならば確実に撃破しろ。敵わないなら全力で撤退し、策を練れ』」
「……?」
ガイツの目が俺に向く。
拘束されていた感触の残る腕を擦り、立ち上がって軽く振る。
「聞き覚えあるだろ。前、あんたが実技試験前に俺達義勇兵に言った言葉だ」
「与太話を聞く気は無い。心証でも良くしたいのだろうが無駄な――」
「探りさ」
「――わざわざ俺の疑いを濃くしてどういうつもりだ?」
「アドリーの言う通りだ。この状況でリシディアと力比べをしても前途は暗い。アルクスは認められるどころか逆賊の汚名を着る可能性の方が高い。勝てるとも限らん。……そんな分の悪い賭けに、『戦うなら確実に勝て』と言い放ったあんたが乗るとは思えない」
「…………」




