「山椒魚」
ヴィエルナの傍を離れたマリスタが、よろよろとギリートへと歩み寄る。
「私の父さんが……決めたってこと? ケイの拘束も、学祭の中止も」
「? そうだよ。聞き直したってことは、やっぱりショックだった?」
「…………」
――力無く俯いてしまうマリスタ。
また倒れそうになった彼女にエリダが駆け寄り、非難がましい目でギリートを睨んだ。
ギリートは眉を八の字に曲げて困った顔を作った。
「事実から目を逸らしたって仕方ないって。こうしてる間にも僕らどんどん立場を亡くしてってるんだよ、『仕事が遅い無能集団』って思われてね」
「あんたはそれでいいと思ってんの? イグニトリオっ」
「別に何とも。ただ――こりゃ生徒会長に許されてる権限の範囲を超えてるから、どうしようもないなって。だって火急の事態に急遽任命された、学長代理サマからのお達しだよ。いち生徒が吠えて変わるならとっくに動いてるよ、僕。そうだよね、コーミレイさん?」
「――ナタリー?」
ギリートの言葉に、マリスタを含む幾人かがナタリーを見る。
ナタリーはその視線を避けるようにして、ピンクのニット帽を目深に被った。
ギリートが目を細めて口角を上げる。
「だろうね。アルテアスさんの望みとあらば、言われなくても万策を献上奉るコーミレイさんが、事ここに至ってもだんまりだから。そんなことだろうとは思ったよ」
どこか満足そうにさえ聞こえる声音で言うギリートに、しかし反論する者は誰も居なかった。
襲撃者の正体を絞り込んだその頭脳と、一の言葉に十も百も返すその姿を目の当たりにしてきた義勇兵コースの面々にとって、そのナタリー・コーミレイが沈黙しているという事実は、これまでにない絶望感を伴って彼らの口を塞いでいたのだ。
「……もう仕方ないんじゃない? 別に劇なんて、やろうと思えばほとぼりが冷めてから部屋借りてできないワケじゃないし。アマセ君も潔白なら、学祭終わって早々に開放してもらえるだろうし――――アルテアスさんもこの調子だしさ」
「――わ……私?」
「だってその様子じゃ、思いついても居ないだろ? 学長代理に――――お父さんに直談判しよう、だなんて」
「――――」
マリスタの目がゆっくりと見開かれる。しかし、その驚きもすぐに絶望へ飲まれて消えた。
見ていたナタリーが苦しそうに視線を俯かせる。「やっぱりかぁ」、とギリートがひとりごちた。
再び、場を重苦しい静寂が飲み込んだ。
「……何で話せないの?」
「ん?」




