「騒音少女」
シャノリアやマリスタにはただの暴行だなんだと言われているが、あのテインツ・オーダーガードとの戦いは俺に様々な経験を与えてくれた。
魔法を使える者の戦い。
実戦での魔法の使い方。
攻撃の避け方。
戦いへの心構え。
命が減っていく感覚。
死へと近づく感覚。
魔力切れの弊害。
他にも色々あるが、こうして数えていくとキリがない。
まだまだ、学べることは山程ある。
当面はこの学校を利用し、力をつけるんだ。
そして、いずれ必ず――――
「ケイっ!!」
声に、我に返る。
気が付くと授業は終わっており、目の前には俺の顔を覗き込んでいるマリスタがいた。
「はろー?」
「……どうした。何の用だ」
「わーでたでた『ナンノヨウダ』。ほんととっつきにくいんだからあんたは。ゴ・ハ・ン! 今日こそ一緒に食べ行こ! テインツ君とのケンカのこととか、聞きたいこといっっぱいあるんだから!」
そう。「今日こそ」。
この赤い髪とローブの少女は、性懲りもなく俺を昼食に――しつこい時は夕食まで――誘いに来るのだ。
物好きかミーハーか、はたまた馬鹿か。馬鹿かもしれない。
「悪い。これから図書室に行くんだ」
「またァ? こないだも行ってたじゃん。てかゴハンの後でいいじゃん」
「一刻も早く覚えてしまわないといけない魔法があってな。それに最近腹が減らないから、昼は抜いてるんだ」
「えーちょ、昼抜いてるってあんた、そんだけガリ勉しといてお腹減らないってオカシイんじゃ……って、もういないし! ケイーっ、ケイったらー!」
マリスタの声を背に受けながら教室を抜け、廊下を移動する。目指すはすっかり行き慣れた図書室――
「おや、二階へ行くのですかぁ。同じ階ですゾ奇遇ですなぁハッハッハ」
――食堂があるのと同じ、プレジア第二層。
「……鬱陶しいぞ。俺は昼は食べないと言ったろう」
「んでも図書室も二階じゃんかー。そこまでオトモしたってバチはあたんないでしょーよ一人で行かないでよぉ」
「お前と一緒に行動する意味がない」
「意味はありますとも。感情は積み重なるのです」
「感情?」
「そう。『一緒にいるとたのしー!』って感情がね。おっ今私いいこと言ったぞ」
「…………」
「あっ、ちょ、無視はツライんですけど!」
……疲れる。頭脳労働よりよっぽど疲れる。
どうしてこういう意味もなくカロリーを振り撒くような存在が、学校には若干名確実に存在するのだろう。彼らの騒音に耳を塞いだことは数あれど、その賑やかしさに助けられた経験は一度もない。
こんな奴らとでも、一緒にいるだけで楽しい、などと言ってくれる人種がいるのだろうか。唐辛子でも食べて数日黙っていて欲しい。
「でもさケイ。あんた確か、いつか夕飯一緒した時も量すっごく少なくなかった?」




