「差別には差別を、不寛容には不寛容を」
ヴィエルナの制止を振り切り、マリスタが叫ぶ。
「私達は確かに、なんにも力は無いです!! でも私達は私たちなりに団結して頑張――」
「『何も力は無い』!……その時点で詰みだと何故理解できん。またも俺の言葉を忘れたか、アルテアス」
「は!!?」
「マリスタっ」
「自分の命さえ守れない者に、他の何かを守ることはできん――そう教えたはずだ。頑張っただと? 頑張るだけなら誰でも出来るんだ。大人の世界に求められるのは結果なんだよ」
「っっ……!」
「――だが、能無しにも出来る仕事はある。それが今我々から君達に課した任務だ。我々にとってもプレジアは古巣だ。まさか、義勇兵コースの中にはおらんだろう? 連絡係さえ満足にこなせん粗忽物が――……あるいは、裏切り者が」
「な――――」
『何ィ!!!?』「俺達を裏切り者呼ばわりするのか!」「どういうつもりですか兵士長!!」「今の発言は取り消して下さい!」「俺達を信用してないんですか!!?」
「どう信用しろと言うのだ」
ガイツの横から聞こえる澄んだ声が、生徒達を黙らせる。
ペトラはその青い目を鋭く光らせ、彼らを冷たく見回した。
「先のプレジアでの騒動。貴族至上主義などという妄言に踊らされあわやプレジア全体を血で染めかけた貴族くずれと、存在しない『平民』などという身分の者の全面対立。そんな差別と偏見と、傲慢と浅薄に満ちた温床で肥え太ったお前達何の力も無い生徒達に!!…………一体何をどう期待して信じろというんだ」
『――――――………………!』
――やり場のない怒りと悔恨が、調練場の空気を支配する。
「…………っどうしてっ、」
こみ上げた怒りに後押しされた涙が、マリスタの目からこぼれた。
「どうしてそこまで言うんですかッ!!?」
「……言われるだけの非道に知らぬ存ぜぬを貫いてきた分際で。何の涙だそれは? 下らない」
「下らなくなんかないッ!!!」
「マリスタッ!」
ペトラに猛然と歩み寄ろうとしたマリスタを、ガイツの巨体が阻む。
同時に歩み出ていたアルクス達が、次々にマリスタの腕や袖や襟首、フードを掴み上げ、彼女の動きを封じた。
それでもマリスタの涙は、言葉は止まらない。
「確かに私達は悪かったッ!! 貴族達も『平民』たちも、みんな頭オカしいんじゃないのってくらい対立してたっ!! でも、でももう今は変わったんです!! いいえ、変わろうと頑張ってるッ!! 苦しみながら今までの自分と戦いながら変わろうとしてるんですッ!! それを、それを――――謝ってくださいよ今言ったことッ!!!」
『ッ!!?』
拘束を一部振り切り、伸ばされたマリスタの片腕が、ガイツの胸に届く。
前に、屈強な腕によって掴み取られた。
「どうしてそんなことを、我々が知らねばならない? お前達の事情や都合など知ったことではない。情に熱い先生にでも話しているつもりなのか、マリスタ・アルテアス。そうして手前勝手な都合やドラマに忖度しろという主張そのものが、お前達が糞餓鬼である何よりの証拠だとすら気付けない大馬鹿者めが!!」
「――――――…………!!!!!」
腕が離される。
合わせるように、アルクスらも拘束を解き――――マリスタは、突き飛ばされるようにして後ろによろけ、ヴィエルナに抱き留められた。
「いまだ情緒も安定せぬ烏合の衆。そしてそれを率いるのは、不登校気味の生徒会長と、空席を頂く貴族クラブの残党――――いつのまにやら、プレジアの根も腐ったか」
ガイツが生徒達を見下し、その横を通り過ぎる。
アルクス達がそれに続く。
「話は以上だ、とっとと動け。せめて、求められた最低限の任務くらいまともにこなしてくれよ、未来のアルクス候補生達よ。…………これ以後、事件に関する行動や質問をした生徒は問答無用で拘束するからそのつもりでいろ。ケイ・アマセのようにな」
アルクスの居なくなった調練場。
マリスタの抑えきれない嗚咽だけが、彼らの鼓膜を揺らしていた。




