「強さ格付けチェック:ランク外」
「『人魔』……彼らは、自然界に存在する精霊と全く同じ身体構造でありながら、人間と同じ姿をして生まれてしまう存在です。その生まれる条件も場所も不定であるため数も少なく、目撃例となるとより稀少な彼らですが……」
滔々と、魔法生物学担当の教師、アドリー・マーズホーンが「人魔」なる存在の解説をしていく。
俺は必要な情報だけを手元の羊皮紙に書き込みながら、教本に載った人魔の姿をまじまじと眺める。
そこに載っているのは、筋骨隆々な体を白い学生服のような衣装に包んだ、屈強な男の姿だった。
〝影に至るまで焼き尽くしてやるからよ――――!〟
「…………」
「彼らは、基本的なスペックは精霊と変わらず、高等魔法生物に分類されます。存在そのものが魔力であるため、ほぼ無尽蔵とも言える膨大な魔力量を誇ることもあり、身体能力は人間のそれを遥かに凌ぐと言われます。また非常に中庸な性質を持っており、生育環境によっては人間に友好的にも、敵対的にもなり得ます。定住を好まないので、先も言った通り発見例は少なく、連続した接触は難しいですが、精霊にも人間にもなれなかった彼らを研究・保護しようという動きは少しずつ広がっており……」
俺が出会った赤髪の男。
あれは恐らく、この人魔で間違いない。
あの男は厳密には人間でなく、魔法生物に分類されている魔物だったのだ。
「人魔……」
――正面切って戦っていた訳ではなかったが。
あの赤髪はリセルと同等、それ以上の力を持っているように思えた。
テインツも、ナイセストも、トルトでさえも。対峙しただけで体を萎縮させるような圧を放ってはいなかった。
あいつが無意識に垂れ流していたらしいあの殺気を、俺は未だにはっきりと覚えている。
どの程度の力を持てば、奴と対等に渡り合えるのだろうか。
ナイセストでは、きっと奴には勝ち得ない。トルトからいつか感じた圧はあいつに近いものがあったが、普段の様子から見ても、どうもそれほどの実力者には見えない――雑魚甚だしい俺が格付けするというのも滑稽な話だが。
何が言いたいかというと。
ナイセスト程度を目標に据え、それにさえリセルに「勝てないだろう」と評される俺の実力は、まったく、もう、一分たりとも、本当に――お話にならないレベルだろうということだ。
というか、ただの素人だ。
体格のいい男とか、複数人の女・子ども相手とか、ゴリラとか、犬とか。魔法のない一般人にさえ、俺はまだ勝てまい。格付け以前の問題である。
だが、感覚は掴んだ。




