「王女の命令」
ココウェルは圭の後ろ髪を掴み、引き倒すようにして自分の方を向かせる。
膝を着いた圭が顔を上げた先には、闇の中でも輝く尊大な木賊色の王女の両目。
「もし、行く当てがあったとしたら。あなたはどうするの? ケイ・アマセ」
「ど……どうする、って」
「そこへ行くの? このプレジアを、仰いだ師を、つないだ関係を捨てて。そこへ行くことを選ぶの?」
「――――――」
言葉を失い、体を震わせながら俯く圭。
王女は高鳴る鼓動と笑いそうになる顔を必死に押し止め、更に追い打ちをかけた。
「プレジアは所詮、ただの学校よ。その上プレジアという学校は、王国に不穏分子扱いを受けている。さも卒業生は、魔法のエキスパートとして全国的に活躍しているように言われてるんでしょうけど……そんなの嘘っぱちよ。だって『プレジア卒』というだけで、このリシディアでは不穏分子扱い。どこにいっても厄介者扱いされるのがオチ…………でも、王国は違う」
「!」
少年は、暗闇にわずかに差し込む光に金色の目を輝かせ、後光を背負った王女の影を見る。
「どんな形でも、王国に仕官しているとなればそれは誉れ高いこと。行き交う人々全てに称賛され、憧れと羨望の眼差しで見られる。他国に行っても、王国の出だといえばそれだけで一目置かれる。目の前に、無限の可能性が拓けてくる――――王国騎士となれば、なおさら」
「!……ココウェル、」
「でも、王国騎士は狭き門よ。戦いや魔法に精通していることはもちろん、部隊長クラスの兵士たちのとりまとめ役にもならなくちゃいけないし、何より役目を果たせるだけの知性が無いといけない。あなたみたいにね」
「お前……まさか俺を騎士に、」
「あぁでも」
ココウェルは圭を見下ろし、悩ましげに頬に手を当ててみせる。
「今のその体たらくじゃあ、とてもじゃないけど騎士に推挙なんてできないなぁ。困ったなぁ、もったいないなぁ」
「…………!」
一体どうしたらいいのかしら。王国騎士は激務だもの、チンタラと病気が癒えるのを待ってなんてくれないだろうしぃ…………あー。そういえば、例外もあったんだけなぁ」
「! 例外?」
「そう。メンドくさい試験や適性を見られない、例外」
ココウェルが、流し目で圭を見る。
物欲しげな表情をした少年をたっぷりと見つめ、王女は満足そうに微笑んで彼に顔を近付け――両手で、彼の顔を挟んだ。
「それはね。王族の専属騎士よ」
「……専属?」
「そうよ。どこにも属さず、何にも縛られず――――いいえ。わたしにだけ属し、わたしにだけ縛られ、頂くわたしだけに仕え――――わたしだけを求めるの」
両手で少年の顔に触れたまま、王女は彼を壁に押し付ける。
「っ――!?、」
鼻先が触れる程の距離で、
「――――ケイ・アマセ、」
胸で押し潰れた乳房を意に介さぬほどの情熱で、
「――――騎士に。わたしのものになりなさい」
王女は少年に、短くそう命じた。




