「倒すべき敵は」
◆ ◆
「何だと?」
「何も教えない、と言ったんだ。敵の正体も、何もかも……今のお前に教えて何になる。これからすぐに、仇を討ちに行けるとでも?」
「…………」
…………尤もだ。
リセルが椅子に座り直し、足を組み替える。
「お前は弱い。私がお前をこのプレジア魔法魔術学校へと導いたのも、それが理由だ――私を襲ってきた赤髪の男を覚えているだろう。あいつが放った魔法の威力も」
「……今は力を付けろ、ということか」
「少なくとも、あんなベージュローブのイキがったガキ相手に歯が立たないようじゃ、スタートラインにすら立てん。都合よく義勇兵コースを自ら志願してくれた訳だし……そうだな」
リセルがカレンダーのようなもの――やはり、字はまだ読めない――を眺め、やがて俺を見た。
「二カ月後、筆記試験の後に、義勇兵コースの実技試験が行われる」
「実技試験?」
「その試験はトーナメント形式で、個人の総合的な戦闘能力を問われる。義勇兵――つまりこの学校が所有する傭兵「アルクス」構成員として、世に武勲を示せる人材かどうかの見極めが行われるわけだ。全等級の者が入り乱れての実技……戦闘となり、そこで得られた評価がローブの色にも影響する。……ま、いつも優勝争いをする者は決まっているようなものだがな」
「……ナイセスト・ティアルバーか?」
「ご名答、演習スペースでお前を助けた白黒男さ。そして常に勝利する。奴に並ぶくらいにならなければ……お前の底も知れるというわけだ、圭」
ナイセスト・ティアルバー。あいつが、プレジアの最強。
「…………上等だ。その実技試験で、俺に優勝してみろというんだな」
「勝てるとは思っていないがな。まずはどこまでやれるか、力を示してみろ。砂利山の小石か、綺羅星の原石か……見極めさせてもらうぞ、圭。お前がこの先、いつまで続くかも解らん仇討ちを戦っていける男なのかどうか」
「いいだろう。精々のんびり踏ん反り返っていろ」
二か月後の、実技試験。
そうと決まれば、後は力をつけるだけだ。
「それと、私は一応校医だ。子どもたちのカウンセリングなんかもやっているから……何か悩みがあったら相談に来てね?」
「猫を被るな気持ちが悪い」
「あら、冗談の通じない子ね」
「元々だ。冗談の理解を人に強いるな」
「……今度は信用してない、とは言わないんだな」
「…………喧しい」
「ふふふ、このぉ~」
「俺の死角から迫るなっ!!」




