「呪いのせい」
「――――――――――
――――――、 。
その言葉を、俺が認識するより早く。
手を振りほどき、ケイ・アマセはパールゥを硬く抱き締めていた。
「んっ」
俺にしか聞こえない、短く高く小さな声。
体中に押し付けられる、肌理細やかに敷き詰められた柔肌の感覚。
鼻を擽る少女の香り。
じわりと染み入る心地よい体温。
耳元に感じる息遣い。
何もかも、この身体が欲していたものだ。
胸の疼きが消えていく。
体を支配していたどうにも耐え難い不快な痛みが、降り止む雪のように静かに消えて――――消えて。
それとは別の、また抗い難い――――衝動が、俺の頭を沸かせ始めた。
「――っっ」
中途半端にさ迷った右手がパールゥの背中で惑い、パールゥはその度に、どういうわけかビク、ビクと身を捩らせる。
彼女の吐息が僅かに荒く、甘くなり――――何かに耐えるように、少女の細い手が俺の服の背をぎゅっと握り締めた。
――――天瀬圭は理性は理解している。
ここは楽屋。
誰かが入ってくれば、一発でアウトな状況だ。何がアウトかは解らんが。
それは認識出来ているのに、離れない。
ケイ・アマセは、目の前の少女から離れられない。体を制御できない。
まるで、自分とは別の意識が体を乗っ取ってしまっているように。
……呪いのせいだ。
先程の狂おしい程の痛痒さが呪いの痛みだというのなら、ただ少女を抱き締めているだけのこんな状況に多幸な程の心地よさを感じているのも、呪いのせいでしかない。そうでなければ通らない。
とはいえ、本当に何なのだ。
こんな「痛み」など、呪いはこれまで一度たりとも訴えてきたことは無い。
あの妙な愛恋イベントの前にも、痛みを伴わないちょっとした混乱状態に陥ったことはある。
だがそれは痛みのある呪いの前段階のようなもので、こんな狂おしさを伴うことは無かった。
呪いの進行と捉えるのは簡単だが、これまで呪いの進度を測る目安となっていたのは単純な痛みの酷さであって、全く違う「痛み」への変化ではない。
……駄目だ。
状況も相俟って、これ以上のことが考えられない――――
鼓動を速めていく心臓。
それがやけに大きく聞こえるのは、きっとパールゥの鼓動も混ざっているからであろう。
二つの心臓が溶け合い、一つの大きな心臓となったかのように。
「……けいくん……」
「っっっ……!!!」
至近からの悩ましげな声が鼓膜を、脳髄を震わせ、寒気とは違う電流が背筋を駆け上る。
今、決して起こしてはならない俺の中の一部分に響き、しきりに揺さぶってくる。
湿った口が、俺の耳元で開かれた。
「……私は――――みんなに見つかっても、いいよ?」




