「『魔王になれ』」
リセルを見て、告げる。リセルは表情を変えず、見詰め返してくる。
「……殺す」
「ああ、殺す。家族を殺した者を、この俺の手で。必ず」
「……ひとたび復讐の闇に踏み入れば、二度と陽の光の下には帰れない。お前の家族もそれを望まないだろう。それでもか」
「契約も万能じゃないんだな――何が闇だ。陽の光の下だ。俺は最初から、そんな所に居やしない」
「――――」
俺は、あの日からずっと死んでいた。
死んでいながら、生きた振りをし続けてきた。
見つかる筈のない仇探しを慰みに、ただ生き死んでいた。
だが、同時にずっと生きていた。
生きていながら、死んだ振りをし続けてきた。
きっと存在する、仇を探す手段を求めて、死に生きていた。
意味のない命。
大切なものを守れなかっただけの命は、ここで漸く終わる。
死んでいるのに生きた振りをするのも、生きているのに死んだ振りをするのも、もうウンザリだ。
「ありがとう、リセル。俺をここへ連れてきてくれて」
「……!……は――はは。まさか礼を言われるとはな…………では、これから私とお前は共犯者というわけだ。天瀬圭」
リセルが、俺に手を差し伸べる。
「お前はこれから魔女の騎士として、私と共に在る。私はお前に――――っ!?」
その手首を取り、俺は――――リセルを自分へと引き寄せた。
もう一方の手首も空いた手で取り、体を寄せ――鼻先に迫ったリセルの顔を見下ろす。
「俺と共に来てくれ、魔女リセル。俺にはお前の力が必要だ」
リセルは突然のことに目を見開いている。いい気味だったが、やがてその驚きも表情から抜け落ち、リセルはニヤリと人の悪い笑みを浮かべて、俺の手を振り払い――――指を絡めて、両手を握り直してきた。
「……私の言った通りになっただろう?」
「五月蠅い」
「フフ……だが、こういう見栄切りは好きだぞ」
「そうだろうな。感じるよ」
「フ――ハハハ。いいだろう。私はお前を魔女の騎士とは思わん」
魔女が細い体を俺に密着させ、めちゃくちゃな弾力が胸辺りに押し付けられる。
それを知ってか知らずか――十中八九知っているだろうが――魔女は鼻先で俺のそれを僅か擽り……離れた。
「お前は魔王になるんだ、圭――――なればこそ、私は魔女となってお前と一つになろう」
「魔王にだって何にだってなってやるさ。俺達の敵を殺す為に」
――――世界が、少しだけ鮮やかになった気がした。




