「第2幕、第8場――⑦」
野太い稲妻の音が脳内で響き、眼窩の奥底から火を噴いたような痛み走った。
同時に足がもつれ体が傾き、俺の身体は筋書きとは全く違う方向へ――――
――――腹部に衝撃。
「ぐっ……!?」
衣裳の甲冑から嫌な音がする。
一瞬の浮遊感、次いで背に衝撃。
身体強化もしていない状態で打ち付けられる後頭部。
その痛みが気付けになったのか、先程より僅かに開けた視界で、落ちたそこがこのシーンの終わりの位置であることを認識する。
どうにか上体を起こす。
上空には、演出の風属性魔法で浮遊するギリートの姿。
朧気だがその目には、明らかな失望の色。
理由に検討は付くが、今は――
「……まだだ。まだ――」
「もうよい。飽いた」
俺の台詞にギリートが合わせ、シーンを先へと進める。
本当はまだ戦闘シーンが続く筈だったのだが――ギリートの機転によって、ストーリーはゼタンとクローネの剣での戦闘終了直後にまで飛ばされた。
助けられたのだ、ギリートに。
ギリートが手を上げる。
地鳴りが会場全体を揺らす。
まだこびりつくような痛みがあるが、無視してギリートへ視線を向ける。
「な……何をしたっ」
「何を? 馬鹿なことを訊くものだ。遊興を終えた柱が何をするかなど知れておろうが」
「――!!」
――――やや遅れ、再び地鳴りのような音が響き――――暗がりに巨大な巨大な目が、現れた。
「巨神……ディオデラ――!!」
俺の居る舞台が暗転し、暗闇に包まれる。
ここからはしばらく、ユニアらとディオデラとのシーンが続く。
近くの出捌け口から捌け――――堪え切れず、膝から崩れ落ちるようにして四つん這いになった。
「ケイ!」
シャノリアの声。
辛うじて片手を挙げて応じ、丁寧に大きな呼吸を繰り返す。
目を閉じた闇の中、滲むように視界を縁取る赤黒い呪詛が、呼吸に合わせてゆっくりと消えていく。
両肩にそっと置かれるシャノリアの手。
全身の血管が脈打つのを感じる程敏感になっている今の身体に、その心地よい感触はひたすら有り難かった。
「続けられない? 降りる?」
「っ……いや……続ける。続けさせてくれ」
こんな状態で何を、と俺でも思うが――呪いが激しくなりだしたのは、ギリートの急な予想外の動きに動揺したからだ。とも考えられる。
小道具の剣を折られぬよう、体に必要以上の力が入ってしまい――――結果闘争心を煽られてしまったのだ。とも言える。
それに……
〝今の力の最大限、君の粋を見せてくれ〟
奴が今後も、あのシーンで俺を試すつもりだというのなら……元より選択肢はない。
助けられた身で文句は言えないが――あそこで仕掛けるなら事前に言っておいてくれればよいものを。
……お前の都合で振り回すな、全く。
こっちにもこっちの都合があるのだから。
「……解った。イグニトリオ君にも配慮するよう、伝えてくる」
シャノリアが去る。
一際大きく呼吸をし、針穴に糸を通すような慎重さで、俺は次なる出番に備え始めた。




