「第2幕、第8場――⑥」
◆ ◆
「……シャノリア先生?」
「イグニトリオ君……!」
シャノリアが目を細め、舞台上のゼタンとクローネを――――圭とギリートを見る。
パールゥはその表情と言葉の意味を読み取れず、彼女の名を呼んだ。
舞台上では次なるアクションが始まっており、パールゥの目には苦しそうな圭と、あくまで役に打ち込んだ無表情を貫いているギリートが映る。
再びシャノリアに視線を戻しながら、パールゥは彼女を睨んだ。
(……きっとケイ君は呪いが疼いてるんだ。あんなに苦しそうなのに、追い込んだディノバーツ先生がどうして保護者面してるんだろう。イグニトリオ君も、あれだけキツそうなんだから気付いたって――――)
――――折れた圭の剣が、床に転がったときのことを思い出す。
やがてパールゥは、ギリートが気付いていないはずがないと気付いた。
「先生、イグニトリオ君は」
「剣を打ち合わせた時の音で分かる。彼は――――またやる気でいる」
「……何を考えてるの……!」
静かな怒りをギリートに向けるパールゥ。
しかしシャノリアの視線は、既に圭へと移っていた。
(……練習のとき、ケイが劇の筋書きを無視してイグニトリオ君に突っ込んだことがあった。実技試験のとき、ティアルバー君にだってあんな感情の乱し方をしなかったケイが)
〝焦りや自棄じゃない。今の俺に見える、確かな目の前の道なんだ〟
――シャノリアの目には、圭があのときと同じ目をしているように、見えた。
何か、駆け引きが行われている。
劇として演技を交わしながら、二人は全く別の次元で何かを交換している。
(……学祭終わったら思い切りどやしてやらなきゃ。劇を何だと思ってるの、あの二人は。まったく)
しかし、目の前にはギリートの攻め手に真っ向から立ち向かっていく、強い瞳の圭の姿。
〝どんな目的を持っていようと、あなたを咎めたり、止めたりするつもりもない〟
(…………危なくなったら、止める。私は私に、出来ることを)
口を堅く引き結び、一瞬たりとも見逃すまいとシャノリアは目を凝らす。
もうじき、二人の立ち合いも終わりを迎える。
◆ ◆
手が痺れる。
それをまだ自覚できているのが、せめてもの救いだ。
「ぐ……ヴ……づッ……!!!」
気付けば、体に染みついている動きをなぞるだけで精一杯。
視界は既に白い。
視界を縁取るように浮き出た赤黒い呪詛が、まるで瞳に直接書かれているかのように消えてくれない。
劇を台無しにすることは出来ないという義務感と目の前のギリートと、
〝見せてみろ。でないと――――終わるぞ〟
――――ナイセストとの、極限状態での戦いの記憶だけが、俺の意識を辛うじて繋ぎ止めていてくれる。
――――黒い電流が、両目頭を駆け抜けた。
「づッッッ!?!?!?!?!?」




