「第2幕、第6場――⑥」
「クローネ――あなたまさか、」
その時だった。
音も無く、部屋の中心にゼタンが歩いてきたのは。
『!!!?』
「嗚呼、不便なことだ。このままお前の両目を貫ければ、どれだけこの後が楽だったか――――」
不意のことに、残党達は揃って壁際に体を押し付け。
クローネは、既に剣の切っ先をゼタンへと向けていた。
「――いつの間に抜剣した」
「言葉の割には随分余裕だな。ゼタン」
「余裕などありはせんよ」
「じゃあ追い詰められている?」
「我はお前達を相手に余裕も焦りもせんよ。畑の世話に命を賭すほど暇でない」
グ、と作物呼ばわりされた兵士たちが力む。
ギリートの奴、本番になって更にノリノリで演じてやがる。
本当に、こいつの神への馴染みようはどこからくるのか。
ユニアを――パールゥを庇うようにして立ち、台詞を言う。
言いながら、ゆっくりと呼吸を、精神を――――呪いのざわつきを、出来る限り落ち着けていく。
ユニアとの別れ、そしてゼタンとの剣同士の戦い。
二連続で、呪いが疼く可能性の高い場面。
この後が、正念場。
「――いいだろう。俺がお前と戦ってやる」
「クローネ!?」
ゼタンの放った宣戦布告――「我を斃すチャンスをやろう」。
そのあまりにも建前な誘いに、クローネはただ一人応じる。
「……貴様一人でか? こうは言いたくないが、玉砕などという考えは美しく――」
「白々しいんだよ。お前の目的は皆解ってるんだ、今更下手に取り繕うな」
「――そうか。ではその他下々は精々指をくわえて見ているがいい。貴様等唯一の頼みの綱が、ぐちゃぐちゃに引き裂かれるのを」
「な――何だと!!」
アトロ演じる兵士がいきり立つが、それ以上何も言えない。
ゼタンは三柱の中で最強の神だ。
そして実力はもとより、自分の存在理由にどこまでも忠実で――人間の意志力を最大限集めることだけしか考えていないこの神が、機神ディオデラを本当に使わない保証はどこにもないのだ。
力無きが故、本来なら黙るしかない。
最早この神に言葉を投げかけられるのは、騎士クローネのみなのだ。
「塵も残らぬよう、丁寧に丁寧に踏み潰してやるから覚悟しておくことだ。そうしてすべての希望が潰えた真の絶望の中で、泣きながら、喚きながら、狂いながら――人間と生まれた己の運命と、貴様等を人間などに産み落とした親を呪って死んでいけ。塵屑共」
「――――――――ゼタァァァァァン――――!!!」
「やめろよゼタン。思っても無いことを喋るな」
剣に手を掛けかけた兵士をクローネが制し、ゼタンの眼前に立つ。
ゼタンが、初めてニンマリと笑った。
「……そう言うな。こうした方がよく育つのだ、貴様等は」




