「第2幕、第6場――⑤」
「……詰めの先手?」
「クローネ?」
近しい立場である筈のユニアさえ疑問を呈しているのを見て、兵士はクローネの言葉をその場凌ぎの言い訳と判断する。
「……テキトーなこと言ってんなよ総大将よォッ!! 先手を打ってくるって、その先手で俺達は終わり――」
「奴は今、この上なく上等な『心の力』を手にしている」
「――上等な?」
「俺達人間が、生きているだけで貯めることが出来る、意志力とでも呼ぶべきもの。『魔力』というエネルギーを、圧倒的に増幅させることが出来る力――魔法を扱えるようになったからこそ解る。ゼタンにとってこの人間界は、出来得る限り手放したくない『意志力の畑』なんだ」
「ゴチャゴチャ言ってんじゃねえよ、それが今の状況やお前の言葉と何の関係――」
「だからこそ俺達はまだ生かされている」
「――――――」
兵士が止まる。
悲嘆に暮れていた人々も、徐々にクローネの言葉に耳を傾け始めていた。
「ゼタンの創ったカラクリ人形の力は絶大だ。その気になれば、最早残党でしかない俺達なんてすぐにも潰せた筈だ。でもあの人形は、今は一欠片の魔波も伝えてこない。ゼタンの意志によって停止させられているからだ。じゃあその理由は?」
「……私達を滅ぼす前に、出来る限りの意志力を『収穫』しておこうって魂胆、ね? もしかすると、その人形を動かすのに必要なだけの魔力が――意志力が無くなっちゃったからかもしれないけど」
「俺もユニアの言った通りだと思う。そしてもう一つ、大切なのは――ゼタンには、俺達への復讐心や恐れなど、微塵も無いということだ」
「な――何?」
「奴は『神』で、逆に言えば『神』でしかない。同類の神を殺した俺達を憎んだり、自分が殺されるかもしれないと焦ったりなんて感情は、奴には存在しないんだ。奴はこの人間畑の管理人として、ただ淡々と俺達を育て、そして間引いてきた。今の状況にも、きっとゼタンは毛ほどの焦りも感じちゃいない。そしてカラクリ人形の完成で、俺達をいつでも滅亡させられるようになった。後は――」
「――絞るだけしぼりとって、絶滅させる――」
「そう。より従順で意志を持たない、完璧な人間を創り出すまでの『先立つもの』も、必要だろうからな」
兵士がよろよろと後退し、やり場のない怒りと無力感で空を叩く。
それが収まるのを確認してから、クローネは再び口を開いた。
「それが、俺達の最後のチャンスになる」
「……チャンスだと?」
「言っただろ。あいつは今、皆の絶望で上等な意志力を貯め込んでいる真っ最中の筈だ。でも、まだそれ以上の意志力を手に入れられる可能性がある。奴はそれに気付いてる」
「それ以上の、って……タタリタが死んだんだよ? これ以上の絶望……なんて……」
言葉を、ユニアが目を見開きながら途切れさせる。
その眼前には――タタリタの騎士、クローネの金色の目。
「そうだ。俺の死だ」




