「氷解、そして閃光」
「気なんて遣わない、ということか? 盛ってるんだなお前も。何なら私が」
「黙れっ、日の当たる場所に出ることも叶わん魔女が。お前がその気なら、今直ぐにでもお前の存在を校長にバラしたっていいんだぞ」
「構わんぞ。その場合、お前のことも洗いざらい白状してやる。こことは違う、新たな世界――そんなものを知った世界が、どういう行動に出るのか……あの世界の歴史を知るお前なら、解っているはずだと思うがな」
「やるなら勝手にすればいい。ハナから執着はない、あんな世界にもっ…………」
「家族の居ないあんな世界にも、そして家族を救えなかったこんな自分にもか。なるほどな」
「っ!」
人の心を、まるで自分のことのように……想像以上に厄介だな、この契約ってのは。
「おお、怖い怖い。そんな目でか弱い少女を見るな」
「誰がか弱い少女だ、こんな契約今直ぐ破棄する、取り消させろっ」
「えらく吠えるんだな、意外なことだ……だが、契約を破棄することは出来ない。機能的にも、これからお前と私が共に目指す、『目的』のためにも」
「目的? 御免だな、お前のような性悪と共になんて死んでも、」
「いいや。お前は自ら私に頼むようになる。『共に歩んでくれ』とな」
「馬鹿げたことを――――!」
「何故ならこれは、お前の家族にも関わることなのだから」
――――――――――――――――――――――――――――。
「……やっと落ち着いたか? 意外と熱しやすい男なんだな、お前」
「ど……どういう意味だ」
「さて。お前はもう、自分で思い至っていたはずだが?……私も見たよ、お前を通してな。あの炎、爆発は間違いなく魔法。そして――その時お前が見た人影こそが、私が追いかける『敵』だ」
……敵。
〝気持ちはわかるわ、圭君。でもね、いい加減現実を見ないと――犯人なんていないのよ〟
敵だと。
「……うそだ」
「これが嘘でないことは何より、お前自身がたどり着いた『仮定』が証明しているだろう。お前の家族に起こった出来事、あれは――こちらの世界の何者かが関与したものでしか在り得ない」
「………………」
敵が、いた。
確かに、やっぱり、存在した。
「……どうだ。既に私たちは、同じ目的を持つ同志だとは思わないか?」
いたとして、ではどうする。
仇が手の届く所にいるのだとしたら、俺は――――
――思い出されるのは、歯を剥きながらナイフを光らせていたあの日の少年。
そして、
〝じゃあ、きみはなんのためにいきているの?〟
「…………お前はどうしたい。圭」
声。
どこか悲しげな声。
俺はどうしたい。
どうしたいって。
どうしたいって、決まってる。
「……俺は、夢の続きが見たい」
「?」
ピンとこないらしいリセルが首を傾げている。
どうやら「契約」は、完全な読心を可能にする訳じゃないようだ。
――――嗚呼。
ようやく、口にすることが出来るのか。
「殺す」




